例会・研究会ダイジェスト 【講演】
「eビジネス発想の原点〜事業の再構築とIT活用〜」
株式会社まるまん 代表取締役 山岸 利基氏

新生「まるまん」に向けて

 実は宅配サービスを始めようと思っています。今でもたくさんお買いあげいただいて持ちきれないお客様に、夕食の支度の時間までにお届けしていますが、近く、電話やファックスで注文のあった商品をお届けするという宅配サービスも始めようと考えています。全国でもすでにこんなスーパーはあります。

 お客様の発注をみて、例えばナベ料理だとわかれば、ニラを入れられてはどうですか?とおすすめする。たとえそちらの方が合計額が安いとわかっていても・・・。Aさんのお宅では和食が多い、Bさんのお宅では洋食、Cさんのお宅ではパスタが多い。とすれば和食の多いAさんには美味しいお味噌や醤油を紹介したりする。パスタの好きなCさんにはこんなバージンオリーブオイルが入ってきました、いかがですか。とお知らせする。こうすることでお客様→顧客様→固定客様→ひいき客になって、ほかのお客様も呼んできてくれます。
これがFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)です。

 将来的には売価を載せるだけのチラシを出すのはやめたいと思っています。チラシでは自分達の哲学を伝えたいのです。今も木曜日のチラシには「あたりまえ情報」という情報欄を載せています。情報欄を売りにしたチラシを作りたいのです。私達はマクドナルドになりたいとは思っていません。ちょっと前なら、モスバーガー、今ならフレッシュネスバーガーでいこうと思っています。価値観を共有するお客様とともに店を作っていきたい。
だから全てのお客様をとろうという気持ちは全くありません。価値観は従業員も仕入先様も一緒になって共有していきたいと思っています。一緒に店を作っていきたい。「最前線で働く従業員がお客様の意志をくみとって、判断してトップに返してくれる」そんな企業にしたいのです。そこで関係する人達がそれぞれの価値をお互い認めあえる、そんな店づくりです。人から「ありがとう」と言われるほど嬉しいことはないものです。

ITは目標となるビジョンを実現するためのツール

 そうするとコスト高になる可能性はありますが、自分達の商売を知り、今のインフラの中のどこをどう変えると収益構造が転換するかと考えた時、今はチャンスだと思うのです。

親父がスーパーマーケットを始めた時ベンチャーだったように、今eビジネスを始めるということはベンチャーなんでしょうね。私はバーチャルな世界だけでeビジネスをするのではなくて、リアルな世界にバーチャルをどうからませて収益構造を変えるかを考えています。要は「これをやりたいからITをする」です。ITがやりたいからではなくて、こういう価値を提供したいから、夢を実現したいから、そのためにどうしたらいいか考えていけば、「あ、ITを使えばできるかもしれない」「やってみよう」ということになります。

 最初は自分の企業が助かればいいと思っていたのですが、実はこの論点で困っている人がたくさんいるはずです。サプライ・マネジメントに入れない人達もたくさんいるはずです。だからチャンスなんです。どうやって彼らと共有しながらチャンスを生かしていくか・・・。そして利益構造、収益構造を変えていくかなのです。

 これからは顧客と共感しながら価値を高めていくロイヤリティマネジメント、これにプラスして、ITをどこで使っていくかが肝心になってきます。大手さんも商社さんも、eビジネスを始められるそうですが、私は、すべての人に等しくチャンスがあると思っています。

従業員に夢を共有してもらいたい

 実は、英文科を卒業してから、あらためて、絵を習いに美術学校に通いました。その時に教えていただいたことは技法ではなく次のことでした。「あなたはこのリンゴの色を描きたかったのか」「一口かんだ時のサクッとした音を描きたかったのか」それとも、「かんだときに滴り落ちる汁を描きたかったのか」あなたの感動を伝えるものが、絵なんだというのです。「その思いが強ければ強いほど、どうやって描けるかはあとでついてくるんですよ」って。「なんで人にできることが自分にできないの」と考えると、本当にそれがやりたいのならできるんじゃないのと、自分で思えてきます。それで克服するのです。これをやりたい、実現しよう、そのためには何をやっていくかを考えればいいんです。デジタルもあるし、アナログもある。いろんなものが混在していいと思うのです。

 「なぜみんなは、お客様を一人一人として認識しないんだろう?」どこに原因があるかといえば、自分達が従業員の皆さんを名前のあるひとりの人間として接していないのではと気がつきました。従業員の皆さんを十羽ひとからげにしていたのではと思うのです。まず自分達から変えていこうということで、私は手帳のカレンダーに従業員の皆さんの誕生日を入れています。その日には皆さんに花束と自作のカードを入れてお渡ししています。
 誕生日とはその人がその人である一番の記念日なのです。その人を大切に想う気持ちを伝えたい。そこから本当の夢の共有がはじまるのでは。こうしたパラダイムシフトが、お客様にも同じ夢を共有してもらうことにつながると信じています。

 「転がる石は苔をつけない」ということわざがありますね。「A rolling stone gathers no moss.」本来の意味とは違いますが、私は転がること変化することがとても価値あることと考えています。
そこで、お客様と、働いてくださる方と、私とで一緒に動きながら夢を共有していきたい。その気持ちをこめて表現を変えてみました。
「A rolling snowball gathers much snow.」

BACKHOME