ドレスアーップ!

※キャラクターズファイルの澳継のやむおち絵を見て、ふと思いついたネタです。

澳継おきつぐ、これを着ろ」

「・・・・は?」

 最初、それがなんなのか判らなかった。

 部屋でゴロゴロしているのにもきて、鍛錬にでも向かおうと俺が立ちあがったときだ。同じ部屋で昼寝をかましていたハズのたんたんが、いきなり立ちあがり、自分の荷物の入った袋を(こいつは異様に自分の持ち物が少ない。部屋の隅においてあるその袋だけで事足りるほどの量だ)漁り出した。と、底の方にしまってあったらしい箱をとりだし、なにやらウ薄桃色の布を掴み出した。

 それをおれに渡した、「着ろ」と吐いてる。

「これ、なんなんだ」

「外国の着物らしいぞ」

「らしいぞ、って・・・。お前のもんなんだろうが?」

「いや、それは南の方にいたときにった海賊船を墜とした時の戦利品でな」

「海賊船・・・」

「よくある話だ。それより、着てみろ」

「いや・・・、俺はそっちの話の方が聞きたいような気がしてきたが・・・・」

 俺は、そいつを広げて見た。あの比良坂って女の着ているモンに作りは似てるな。いたるところにビラビラとしたもんがついてるし、胸元にも何かの花をかたどってるらしい布の塊が・・・・って、おい!

「たんたんッ、これ女物だろ!」

「そうだが?」

「不思議そうな顔するんじゃねェッ!」

 それがどうした?といった顔になったたんたんに向かって俺は怒鳴っていた。なんだって、俺が女物の、しかもバテレンの衣装なんか着なくちゃならないんだよッ!

 それをそのままたんたんに伝えたが、こいつはさも当然そうにこう言いやがる。

「似合うと思うぞ」

「雹とか比良坂がいるだろうがッ!」

「丈はお前にちょうど良い」

「あーのーなーッ! 大体なんだっていきなりこんなモン着ろなんていうんだよッ!」

「今まで持ってるのを忘れててな。夢の中で思い出した」

「・・・・・・・」

 俺は半眼でたんたんを睨んだ。

「・・・・嫌がらせだろ?」

 言った途端視線をそらした。

「そんなわけないだろ」

「俺の目を見ていいやがれ」

「そんなわけないだろ」

「真正面から俺を見て、白々しいこといってんじゃねェッ!」

 愉しみに爛々と輝くその目を見て、誰が信じるかッ。俺は、立ちあがり背を向けた。

「着ないのか?」

「誰が着るか―――ぐはッ!?」

 いきなり頭に衝撃をくらい、俺は障子に突っ込んで、そのまま庭に叩きつけられた。

「こ、この野郎・・・また、蹴りを・・・・」

 こ、ここで気を失うわけにはいかねェッ。次に目を覚ましたとき、俺は男の尊厳を粉々にされるだろう・・・。

「う、おおおッ!」

 俺は、闇に落ちかかった意識を無理矢理持ち上げ、覚醒する。

「どうだッ!」

 そして、気合の声とともに立ちあがった。と、たんたんはいきなり俺に粉をぶつけてきた。

「あ・・・・」

 その粉を吸い込んだ途端、身体にしびれ動かなくなる。この野郎・・・、麻沸散なんかいつの間に・・・。

「良し」

「良し・・・じゃ、ねェ・・・・」

「おーい、桔梗ーッ! いるだろーッ!」

「!?」

 なんで、桔梗なんか呼ぶんだこいつはッ!

 俺がそれを目で訴えているのを見て、奴は俺の側でしゃがんだ。

「俺は、男の服を脱がして喜ぶような性癖はないぞ」

「なんだい、いきなり」

 この女も、なんだってこういう時だけ、素直にやってくるんだ。いつもは御屋形様以外に何かを頼まれても、いかにも面倒くさそうにしてやがるのに・・・。

「ん」

 現われた桔梗に、たんたんは例の着物を突き出し、俺を顎で指した。

「・・・・・・・」

 桔梗の奴・・・すぐにたんたんの考えを読みとって、にんまり笑ってやがる。

「しかし、着せにくいったらありゃしないね」

「しかたないだろう。麻沸散を吸い込んじまったんだから」

 俺にそんなもんを使ったのはお前だろうが・・・。

「たーさん、裏返して」

「よっと」

 まるっきり人形あつかいだな、俺。もーどうにでもしてくれッ。

「あとはここをこうすれば・・・、これでいいのかね?」

「いいみたいだな」

 たんたんが俺を壁を背に座らせる。本気で人形扱いだ・・・。

「なかなか似合うじゃないか、坊や」

 あきらかに面白がってやがるな、その表情は・・・。

「なにか、たりねェな・・・」

 難しい顔で俺を見ていたたんたんが、いきなりポンと手をたたく。そして、どこから出したのか細長い布切れをとりだし、俺の髪一房に蝶のような形に括った。

「あら、可愛い♪」

「似合うぞ、澳継ちゃん♪」

 後で殺す!

「さてと・・・」

 たんたんが俺を担ぎ上げる。

「ど・・・どうする・・・気だ・・・」

 ようやく痺れがとれてきた手足をバタバタしてみるが、多分、嫌々する子供程度の反抗だろうな・・・。

「桔梗、屋敷に天戒はいるんだろ?」

「九桐もいるハズだよ。ついでだし、雹たちも呼んでみるかい」

「そうしてくれ」

 て・め・え・ら〜

「さあ、お披露目だ。澳継ちゃん♪」

 これからずっと笑いの種にされるだろう「お披露目」に絶望しながら、俺は固く心に誓った。

「後で・・・絶対・・・殺す」

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