■緑と黒と
ひさびさにギャグ全開の沙希姉を書こうかと。
場は静まりかえっていた。天井知らずに熱をあげていく二つの闘氣は、他者の精神を逆に凍りつかせ、畏怖させ、だが目を離させない。 この場を支配するのは、二人の拳が激突する音のみ。 「まさか俺がこの場に出ることになるとはな」 一方は、避けられない闘い。逃れることは更なる悲劇を呼び起こす。 「私は初めから貴方と闘いたかったのよ」 一方は、望み、謀った闘い。逃すならば、更なる喜劇を続けるのみ。 「貴方が来なかったら、正義はくじけ、勇気も友情も愛も砕け散っていた。まぁ、そんなエンディングも面白かったかもね」 「こういった手で脅せば俺がかならず来るとわかっていて、いけしゃあしゃあと」 一方は狂い逃げることを許されず、一方は嬉々として狂い、前へと歩を進める。 二人は叫んだ。 互いの名を。 憎むべき相手を。 愛すべき相手を。 「我が腕の中で沈みなさい、コスモグリーーーッン!!」 「失せろォォオオッ!!」 そのとき、ただの観衆としてしか存在しえない蓬莱寺京一は、こう思考した。 ■ (好きに生きろ・・・) ■ 30分前――練馬区某デパート 「特別公演?」 「ああ」 オウム返しに聞いてきた小蒔に、京一がうなずく。 「この前の祭りで仲間になった、大宇宙の連中が、ここの屋上でヒーローショーをやってるんだ。なんでも、黒崎の親父さんの知り合いがここのオーナーでな」 「ま、ようする客引きパンダだな。あいつらここじゃ結構な人気らしい」 醍醐の説明を途中でぶった切って要約する。 「ふーん・・・でも、なんでボクたちが呼ばれたの?」 「いや、それが・・・」 「沙希さんが『面白いものが見れると思うから皆して来て♪』なんて言ってな・・・」 「あー・・それは・・・」 悪い予感がする。特にこの場にいないクラスメート二人の身辺に対して。 「そもそも沙希さんと大宇宙の繋がりがわからん・・」 醍醐の言葉に京一がうなずく。 「俺は最近、どーもあの人は龍麻を嬲るネタをわざわざ探しまくってる気がしてきたぜ」 「とにかく、もう始まっている頃だ。行ってみよう」 3人は屋上へと移動する。 「わぁ・・」 小蒔がちょっと驚いた、といった感じに声をもらした。 屋上の一角。ヒーローショーをやっていると見られる場所は、大勢の客に囲まれていた。子供たちと、それを囲むように大人たちがぐるりと会場を囲んでいる。 「なんだか盛況だねぇ」 「ちょーとゴメンよぉ」 京一たちは大人たちを半ば押しのけるように前に出て、大人たちの最前列と子供たちの最後列の間に出た。 『・・・・・・・・・・・・・・・・・』 絶句。 「あー・・・」 小蒔は言葉が続かない。 会場には、赤黒桃の三色の正義の味方コスモレンジャー。それと対峙するように、一人の女性が立っていた。 きわどいフォルムの光沢のある黒のレオタード。それとは逆に、必要以上に大きい黒地に赤い模様のマント。さらに、『それ、動いたら自分が傷つくんじゃないの?』と突っ込まざるを得ない、やたら刺々しいメタリックな肩当やベルト類。とどめとばかりに、ありえないほど濃い化粧。アイシャドウなど赤である。 どっからどう見ても『悪の秘密結社の女幹部』がそこにいた。 「オーッホッホッホッ!! 我が組織の怪人たちを退けてきたというから愉しみにしてきたというのに、この程度? これでは、大首領の腹心、このサキ将軍が陣頭に立った意味がないわねぇ、ホーッホホホホホホホッ!」 なんだ、サキ将軍て。 『悪の秘密結社の女幹部』は、高笑いとともに、見下すような笑みを浮かべる。 大して『正義の味方』の方は、満身創痍といった風体だった。ブラックとピンクは膝をつき、なんとか立っているレッドも武器であるバットを支えになんとか、といった状態である。 『悪の秘密結社の女幹部』が手にもつ鞭を振るう。 空を切り裂く音。レッドの足下を鞭の先端が打つ。 「く、くそッ・・・」 たたらを踏んだレッドが、白球をとりだし、大きく振りかぶった。 「神速魔球エーックス!」 「甘いッ!」 鞭がうなり、レッドの右手首に巻きついた。 「うわッ!?」 そのまま引きずり倒され、白球が地面に転がる。 「あれ・・・沙希さんだよね?」 「だろうな」 「別人ほど化粧も濃いし、ウィッグつけてるみたいだが、沙希さんだろうな」 「あッ!?」 驚きの声をあげた小蒔が会場の一角を指差す。指先の延長線を目で追った二人の動きが凍りつく。 沙希の様相に気をとられていたため気づかなかったが、そこには三人がよく知る人物がとらわれていた。 廃材を組み合わせたような形の悪い大十字に、黒髪の少女が縛り付けられている。 「あ、葵・・・」 白いドレスに薄く化粧と、普段とちょっとなりは違うが、間違いなく小蒔の親友の葵だ。 「えーと・・・た、助けて〜」 ちょっと棒読み。 「ふふふ・・・切り札のビックバン・アタックを使いたくても、近くに人質がいるのでは、使うに使えないわねぇオーッホホホホホホッ!!」 「沙希さん、楽しそうだぁ」 「楽しそうだな」 「楽しいんだろうさ」 三人ともすでに、乾いた笑みを浮かべて見ているしかなかった。 「クッ・・・確かに貴様は強い・・」 レッドがフラフラと立ち上がる。 「だがッ!」 ビシィッ、とサキ将軍に指を突き向ける。 「俺たちは負けない!」 「そうだ!」 「私たちは、悪には絶対まけないわ!」 ブラック、ピンクも立ち上がり、レッドと並ぶ。 「愛と」 「勇気と」 「友情!」 『練馬スピリッツ全開!!』 三人のポーズがビシッと決まった。 オオオオオオッ!! 観客たちの歓声が響く。どうも妙な高揚感が会場を包んでいた。 ヒーローショーとは思えないほどの迫真(というかマジモン)の演出がそうさせているのだろうか。 「いい気迫だわ・・。だけど、貴方たちと私のレベルの差は歴然。切り札も封じられている今、どう闘おうというの?」 「・・・アイツが」 「あの男が・・・」 「彼がいれば・・・」 「フゥ・・・」 どうやら新しい展開を迎えたらしいと感じたとき、京一には、全てを諦めたようなため息が聞こえた気がした。 ダンッ! 「なにやつ!?」 コスモレンジャーとサキ将軍、そして観客の視線が上空へと移動する。 セットの一番高い位置。そこに人影が一つ降り立った。 「この世に悪が在る限り―――」 高さ数メートルの位置から男が跳んだ。 「正義の祈りが我を呼ぶ―――」 音もなく、コスモレンジャーの前に降り立ち、サキ将軍と対峙する。 「練馬の平和を護るため―――」 深緑のヒーローコスチューム。どことなく、後ろの三人とは仕様が違うらしく、マスクも口もとまで隠すフルフェイスタイプだ。 「コスモグリーンッ、推参ッ!!」 ビシッ!とポーズを決め、そして駆け出した。 「天空烈砕キィック!!」 「クゥッ!」 瞬時に間合いを詰め、ほぼ垂直に繰り出される蹴り。龍星脚だ。 サキ将軍は、鼻先を掠める風圧を感じながら、後ろに飛びのいてそれをかわす。 二人が再び対峙し、硬直した空気が張り詰めていくなか、アナウンスが流れ出す。 『突如あらわれた戦士コスモグリーン。彼はコスモレンジャーの危機にどこからともなく現われ、その圧倒的な力によって悪を撃ち砕き、そしてまたいずこかに去っていく、謎の男である』 「そういう設定なのね・・・」 「しかし、なぜ龍麻がこんなことを・・。たしかに祭りのときは大宇宙の連中に興味は示していたが・・・」 小蒔と醍醐が首をかしげる。そのとき京一は、黒いバイザーの向こうにある龍麻の目と、視線が合った気がした。 ◇ ―――ク・・・。 ―――心配するなひーちゃん・・・。わかってるさ。 ―――京一・・・。 ―――どうせ沙希さんに脅されたかなんかだろう? ―――ああ・・。来なかったら、正義の味方とヒロインと、そしてチビッコたちの夢がどうなるかしらないわよ・・、と。 ―――あいかわらずキレイな顔してエゲつねぇな・・。 ―――京一、もし俺がこの姿で斃されたら、仇を討ってくれ・・ ―――スマン、パスだ。まだ死にたくねぇ・・・ ◇ もはやテレパシーじみたアイコンタクトを交わしたあと、コスモグリーンが再度、サキ将軍へと突貫する。 「シィッ!」 「クッ!?」 藤崎のそれを遥かに凌ぐ鞭捌きで、サキ将軍がコスモグリーンの進行を阻む。あらゆる軌跡を描くその鞭は、さながら無数に襲い掛かる毒じゃの如きだ。 「ミルキーウェイブ!」 コスモグリーンの脇を抜けるように、コスモピンクのリボンが宙を疾る。グリーンの肩を狙った鞭と絡み合い、ピィンと一本の線のように張った。 「こしゃくなッ!」 サキ将軍がそのままピンクを引きずり倒そうとする。が、それよりも早くグリーンが間合いの内側へと踏み込んだ。 「チィッ!」 眼前に迫る拳をよけるために、鞭を手放し飛びのく。 「セリャァッ!」 さらに半歩踏みこんだグリーンが、側頭を狙う回し蹴りを繰り出した。 「―――フッ!」 バサァッ! サキ将軍がマントを翻す。地面に届くほど大きなマントが、完全にサキ将軍の姿を隠し包む。 「―――なにッ!?」 かまわず、マントごとサキ将軍に蹴りを打ち込もうとしたグリーンの脚には何の手ごたえもなかった。後には、脚に絡まるように力なく沈むマントがあるのみ。 ダンッ! 着地音。さきほどグリーンが現われた場所を、今度も全員が見上げる。そこには、黒いチャイナドレスに身を包んだサキが立っていた。ちょっとしたイリュージョンマジックである。すくなくともデパート屋上でやってるヒーローショーで披露するような演出じゃあない。 「さすがはコスモグリーン。私がこの姿を見せるのは久しぶりよ」 サキ将軍が薄い笑みを浮かべる。黒いチャイナドレスは、さきほどまでとは打って変わって、いかにも軽快な女武道家を思わせる。 しかし、やはりまだ付属されてる、手首や肩等のメタリックデコレーションが、それらを台無しにしてないかと、ツッコミたくなるが・・・。 「行くぞ、コスモグリーンッ!」 「おおッ!」 サキ将軍が跳躍。高速で落下しながら、身体の回転を加えたカカト落としをくりだす。それをグリーンは、両手を交差させ、受け止めた。 「クッ!」 「チィッ!」 グリーンが弾くように、サキ将軍の足を払いのける。サキ将軍は、空中で身体をひねり、難なく着地した。 そして、同時に駆け出し、同質の技を繰り出す。 「マシンガンストライク!!」 「ガトリングラッシュ!!」 ドガガガガガガガガッ!! 拳が幾重にも重なって見えるほどの高速拳撃が、ぶつかり合う。それぞれ仰々しい技名を叫んでいるが、ようするに表の技「八雲」だ。 場は静まりかえっていた。天井知らずに熱をあげていく二つの闘氣は、他者の精神を逆に凍りつかせ、畏怖させ、だが目を離させない。 この場を支配するのは、二人の拳が激突する音のみ。 「まさか俺がこの場に出ることになるとはな」 一方は、避けられない闘い。逃れることは更なる悲劇を呼び起こす。 「私は初めから貴方と闘いたかったのよ」 一方は、望み、謀った闘い。逃すならば、更なる喜劇を続けるのみ。 「貴方が来なかったら、正義はくじけ、勇気も友情も愛も砕け散っていた。まぁ、そんなエンディングも面白かったかもね」 「こういった手で脅せば俺がかならず来るとわかっていて、いけしゃあしゃあと」 一方は狂い逃げることを許されず、一方は嬉々として狂い、前へと歩を進める。 二人は叫んだ。 互いの名を。 憎むべき相手を。 愛すべき相手を。 「我が腕の中で沈みなさい、コスモグリーーーッン!!」 「失せろォォオオッ!!」 もはや誰にも止められない領域に達してしまって二人を、その異様な熱に引っ張られたかのように昂ぶる観客たちの中で、三人はわりと冷めた感覚になって見ていた。 「なんだかんだいって、ひーちゃんも好きなんだよねぇ、こういうの」 「否定できんな、それは」 「ひーちゃん・・・、もう、好きに生きろ」 ドガッ! 龍星脚がぶつかり合い、すれ違うように両者が背中合わせで着地する。 「――しまったッ!?」 サキ将軍が自分の失念に気づく。位置を入れ替えたグリーンが駆け出した。セットの端にとらわれている葵にむかって。 「させるかッ!」 会場の床が壊れるほどのダッシュ。しかし、サキ将軍の目の前に赤と黒の影が躍りこむ。 「銀河流星斬ッ!」 「光分子スライディーング!」 「チィッ!」 コスモレンジャーにも効果が低いとはいえ回復技がある。それでなんとか回復したレッドとブラックがサキ将軍の追撃を阻む。 「じゃまッ!」 左右の腕を振るい、それだけでレッドとブラックが跳ね除けられた。 ビシッ! 「―――このッ!」 ピンクが放ったリボンが、サキ将軍の足に絡みつく。 グリーンはすでに葵が縛り付けられている十字に取り付き、手足腰を縛り付けているロープをすばやく取り外しにかかっている。 「今助ける――ていうか、スマン巻き込んで・・」 「あ、ありがとう――いいの、気にしないで龍麻」 最後に腰に巻きついているロープを解いたところで、背後から強烈な殺気が感じられた。 ゴシャッ! 三人の攻撃を掻い潜ったサキ将軍が、跳躍からの掌打を繰り出していた。斜め上から振り下ろされるように放たれた掌打が、第十字を破壊する。縦の部分であった鉄骨までもが大きくひしゃげていた。 「殺す気かッ!?」 一瞬早く、葵を抱えて蹴り跳んでいたグリーンが叫ぶ。グリーンとしての台詞ではなく、龍麻としての非難の叫びだが。 「さ、逃げてッ!」 「え、ええ」 葵がセットの裏へと消える。4人とサキ将軍は再び対峙しにらみ合う。 「さあクライマックスだ! 悪は悪らしく、正義の鉄槌を受けて滅べ!」 「こしゃくなッ! 人質がいなくなったからといって、私との力の差を埋めることなど―――」 そこで気づく。グリーン以外のコスモレンジャーの位置に。 「この世に悪がある限り・・・」 「正義の祈りが我を呼ぶ・・・」 「愛と・・・」 「勇気と・・・」 「友情と・・・!」 三人の《力》が同調し、天井知らずに活発化する。 「みっつの心をひとつに合わせ・・・」 「しまったッ――」 「今、必殺の!!」 光が、ドーム状の光がサキ将軍を包み込んだ。 「ビックバンアタ―ッック!!!」 ドォンッ!! 衝撃に観客が目を覆う。 『・・・・』 目を開けると、そこには倒れ付すサキ将軍の姿が。 「・・・・フフフ」 ザッ! サキが猛然と立ち上がる。黒いチャイナドレスはボロボロになっていたが、戦闘不能になるほどのダメージをうけているようには見えない。 「怪人程度には脅威かもしれないが、私には効かない!」 「ならば――」 「!?」 コスモレンジャーの配置が少し変わっていた。レッド、ブラック、ピンク―――そしてグリーンが等間隔で、サキ将軍を囲んでいる。 「いくぞ、ブラック、ピンク――グリーン!」 「応ッ! 大宇宙と大地の《力》のもとに――」 「愛と・・・」 「勇気と・・・」 「友情と・・・!」 その必殺技(方陣技)の発動がせまり、サキ将軍が初めて狼狽した様子を見せる。 「よっつの心を一つにひとつにあわせ・・・」 四人の《力》が金色の渦となり、サキ将軍を捉える。 「今こそ放てッ 東西南北中央不敗の必殺技―――」 光が、収束する。 『ビックバン・アタック―――インフィニティー!!!』 光が、《力》が収束爆発――巨大な光の柱が生まれた。 まぶたを閉じても光が瞳に届くほどの光量。やがて、爆音が鳴り止んだころに、観客が目を開けると、そこにはコスモレンジャーの姿しかなかった。 「・・・・・」 静寂が支配する。と――― 『オーッホホホホホホッ!』 姿の見えない将軍の高笑いが鳴り響く。 『今日はここまでにしておいてあげるわ! 覚えてなさい、コスモレンジャー!』 最後まで悪役っぽい台詞を残して、声は途絶えた。 「・・・ハッ! グリーンは!?」 「そういえば・・・」 消えたのはサキ将軍だけではない。いつの間にかコスモグリーンの姿も見当たらなくなっていた。 「また来てくれるかな・・・」 ピンクの言葉に、二人がうなずく。 「アイツもまた、俺たちとおなじ正義の味方だ」 「かならず、また俺たちの――いや、全ての正義の危機に駆けつけてくれるさ―――」 ◇ 『こうして、コスモレンジャー最大の危機は、謎の戦士コスモグリーンの活躍によって退けられた。その正体は誰も知らず、そしてその目的も誰にもわからない。だが、コスモレンジャーが――いや、悪に虐げられる全ての人たちの危機に彼は必ず現われる。そのときまで、さらばコスモグリーン! また会おう、コスモグリーン!』 ◇ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 アナウンスが流れる中、裏方の方にまわった京一たちの視線の先には、ヒーローコスチュームから学生服に着替え、壁に頭を押し付けるようにうなだれている龍麻の姿があった。 「落ち込んでる落ち込んでる」 そりゃあ、な。 「ひーちゃん、途中から完全にノリにのってたからな」 新方陣技まで発動させちゃったしな。 「熱が冷めると恥ずかしいのだろうな、アレは・・・」 「ヤッ、ちゃんと来てくれてたんだねー♪」 「あ、沙希さん・・・」 ボロボロのチャイナドレス姿のままの沙希が現われる。その後ろには、おなじくヒーローショーのときの衣装のままの葵もいた。 「あの、龍麻・・・大丈夫?」 「あんまし、大丈夫くない・・・」 「おつかれー龍麻♪」 「やっかましいわッ!」 「ハーイ、皆〜」 沙希に突っかかろうとした龍麻の気勢がその声に削がれる。 「あれ? アン子!?」 「・・・・・・・・」 龍麻がすっごい青い顔色で、その場に唐突に現われた杏子を見ている。 「私が呼んでおいたのよ♪」 すごい弾んだ声だ。心から愉しんでいる声色だ。 「アハハッ、大丈夫よ龍麻! ヒーローは正体不明だからいいんだから」 そういって龍麻の肩をバンバンたたく杏子の左手にはしっかりと愛用のカメラが握られている。 もちろん激写したのであろう。練馬のヒーロー、コスモレンジャーの新メンバーを。 「でも・・・、そういうヒーローって端から見れば正体ばれないのがおかしいようなのが結構いない?」 ああ、こっちも楽しそうだ。 龍麻がガクゥッとうな垂れる。 「ご愁傷様・・」 「しっかり生きろ、龍麻・・・」 「俺たちは見捨てないからよ・・・、離れた場所から」 「あら、君たちも人事じゃないと思うけど?」 『へッ・・・』 京一たちが間の抜けた声をもらす。沙希が、京一たちを指指し数えてる。 「1、2、3・・・」 そして、後ろに控えてる葵と、今もうな垂れたままの龍麻を指差す。 「4、5、と・・。ほら五人。ちょうど五人♪ お約束的な人数の五人♪」 『・・・・・・』 「龍麻がレッド・・・いや性格的には京一くんかな? 葵ちゃんがピンク・・いや白のほうがいいか。んで、小蒔ちゃんはイエローで決まりで・・・」 ダッ! 京一たちが駆け出した。龍麻も、反応できず右往左往しそうになっていた葵の手をとってそれに続く。 「―――オーッホホホホッ!! 逃がさなくてよッ!!」 『冗談じゃないッ!!』 ◇ その日からしばらく、五人は、沙希とコスモレンジャーの勧誘から逃れるのに必死だったとかなかったとか・・・。 |