■沙希センセイの特訓メニュー(致死量)

まあ、ひさしぶりなんで沙希専用の文カンをとりもどすリハビリメニュー。本来、拳武館つかってやろうとおもってましたが、この時点でそれもってきてドウスルヨ?なので。ちなみに、タイトルから最近おれが何に開眼してしまったかわかる人、いたりしてね。

 どこまでも続く森。それが眼下に広がる崖の上に、六つの人影があった。

 ――ここって本当に日本なのか?

 地平まで続く、木、林、森。

 ――電車と徒歩で海外にいけるという話は聞いたことがない。日本だろうな、ここは。

 京一の問いに、醍醐が律儀に答えた。瞳がなんとなくウツロだ。

 ――沙希さんに拉致――案内されて3時間でつける場所にこんなところがあるなんてね。

 美里もなんだか疲れていた。諦めていた、といったほうが的確かもしれない。

 ――ボク、おなかすいたなぁ。

 小蒔は現実から逃げようとしていた。

 ――・・・・ホント、スイマセン。

 龍麻はなんだか謝っている。

「みんな、なんだか元気ないわよ〜?」

「やかましい!」

 龍麻が何もない空間に突っ込みの手をいれる。普段の、とゆうか普通の相手なら、こんなことはしない龍麻だが、この相手ならば仕方ない。

 現在、真神五人衆は、沙希に拉致られて――もとい、連れられて、緋勇一家がキャンプにくるこの大森林にいた。

 4人には此処がどこだかわからない。電車とバスを乗り継いで、徒歩で山に向かっていたハズだが、いつのまにかこの景色の中にいた。どんな開けた場所に行っても、30分前まで自分たちがいた田舎町は欠片も見えない。

 説明を求めても、沙希は結界がどーとか歪みがどーとか、わけがわからないことをブツブツ言っている。実は私もよくわかってないの♪などと言われたときは、京一は結果が見えてもやらなきゃならないかもな?とか思っていたりした。

 ―――皆修行しよ? じゃ、明日の朝9時に駅で待ち合わせね。野外に3日ほどだから、それなりの準備してくるよーに―――

 突然5人の前に現れた沙希がそう言って、そのまま去ろうとし、龍麻と言い争っていた――龍麻が怒鳴り沙希が聞き流していた――ことが、もう遠い過去のような気がしてくる。

 なぜか、それぞれの家族にはすでに話が通っていた。どんな魔術を使ったのかと怪しみながら、まあ逆らうと後が怖いという理由でそれぞれちゃんと――京一でさえ時間までには――駅についてみれば、満面の笑みの沙希と、ボロボロの――今日のことで沙希とやりあったためであろう――龍麻が迎えてくれた。

 その後は、電車に乗り込み三時間。太陽系第三惑星地球号のどことも判らない場所に立っていた。

「さて、それじゃあ、早速―――」

 沙希が腕を組んで、仁王立ち。そして五人を順に視線を合わせ、重くこう言った。

「――もう、おぬしたちに教えることはないぞよ」

『―――――アホかぁ!!!』

 龍麻と京一が、3秒ほど間をおいてツッコむ。他の三人はボーゼンとしていた。

「まあ、息抜きに来たってのがホントのところだから」

 ダブルツッコみを無視して、話しはじめる。

「元々、私は人にもの教えるのって上手くないのよね。龍麻のときは、勝手に技覚えてってくれるから楽だったわ」

 龍麻はこなれた雑巾が水を吸い取るように、技を習得していく。一ヶ月ほどで発剄、つまり氣の扱いに慣れた後は、沙希ですらおどろくほどの上達速度だた。

「醍醐くんは、私や龍麻とタイプが違うし、京一くんと小蒔ちゃんは武の系統から違ってくる。葵ちゃんにいたっては、方向性の違いどころじゃないし」

「だからって、どうしてこういう連れ出し方を―――まあ、あんたの捻くれ具合は、もう諦めてるけどさ・・・・・」

 龍麻は顔を右手で覆って、肩をガクンと落としている。

 沙希に関わらなければ見れない、レアな龍麻だ。

「ま、明日半日ぐらいつかって、それっぽいことはやりましょうかネ」

          ・

          ・

          ・

「さて、とりあえず飯の用意ね」

 そういって、沙希は建てたばかりのテントから離れ、川に近づく。

「とびっきりの鮎を食べさせてあげる♪」

 というが、釣りの道具など持ってない。

「ひーちゃん、沙希さんどうやって魚獲るの?」

「うん、まあ見てればわかるよ・・」

 なにやら気乗りしてない龍麻。小蒔が首をかしげると、京一が横から話にはいってきた。

「川に入って素手で獲るんじゃねぇか? あの人ならそれぐらいできるだろ」

「まあ、半分正解。でも濡れないようにやるよ、姉ちゃんは」

『?』

 今度は二人で首をかしげる。

「発剄でも使うのか?」

 京一の頭の中では、川に向かって氣を放ち、豪快に鮎をふっ飛ばしている沙希の姿が映っていた。なんというか、そのすごい荒っぽく、鮎を台無しにしそうな行為が、とてつもなく似合っていると口にすれば、あの地獄耳な女は飛んできて、再起不能なまでに自分を叩きのめすだろうとまで思い至り、口にはしなかった。

 沙希は川辺に立ち、一点に集中せず、視界すべてに満遍なく意識をめぐらす。と、視界の端に、《それ》を捉えた。

 トンッ・・

 軽く、半歩ほど後ろに跳ぶ。そして次の瞬間、砂利が爆ぜた。

『―――――――――』

 京一と小蒔、そして飯盒でご飯を炊きにかかっていた美里と醍醐が、その光景を見て言葉を失っていた。

 ズババババッ!

 沙希は川辺から跳び出し、その緩やかに流れる水面を、

 走っていた。

「ば、ば、ば、バカかぁ!?」

 混乱して、京一はわけもわからずそう叫んでいた。

 パパパッ!

 五メートルほどの川面の端から端を走りぬける沙希の軌跡。そこから少し離れた場所に幾つかの小さく波紋が広がる。

 本当にまったくぬれずに川を走り抜けた沙希の両手には、3匹の川魚が。

 同じようにして戻ってきたときには、丁度人数分の鮎が器用な持ち方で両手に在った。

『・・・・・・・』

「なに? 人を珍妙な生き物を見るような目で」

「珍妙だよ。むしろ奇怪だよ」

 龍麻がボソリと。そして沙希がゴツンと。

「・・・えっと、沙希さん。ど、どうしたらそんな怪奇て――し、神秘的なことができるの?」

 なるべくボロボロになった緋勇弟の姿を視界に入れないようにしながら、小蒔が聞く。一部、本音がでかかったが、沙希は気にせず答える。

「なに、水渡りのこと? 簡単よ? 踏み込む時に水の抵抗を最大限受けるようにして、後は『右足が沈む前に左足を前に 左足が沈む前に右足を前に』という由緒正しき先人の知恵を――」

「って、さも当然のように人の限界を超えたことを言うな、この人類規格外――」

 ツッコミを抑えきれなかった京一がビシッと。そして沙希がコキャッと。

「さー、塩焼きよー。龍麻、そこに一式入ってるから出してー」

「へいへい」

 手早く復活している龍麻の横には、死んだほうがマシなんじゃないかな?と思ってしまうほどいい具合にズタボロになった京一が横たわっている。

 とりあえず、その日京一は目覚めず、次の朝に自分の腹鳴りを目覚ましにおきることになった。

 そして、

「あ、起きた? じゃあこれから、鬼ごっこよ♪」

 などといわれて、完全な戦闘スタイル(色合いは真っ赤な生地に金色の龍の刺繍という派手ではあるが、それ以外は機能性優先と見える胴衣に、それこそ何代にもわたって使われてきたような古く無骨ではあるが、不思議と存在感というものを放っている手甲)になっている沙希から、木刀を渡された。

「ルールは簡単。私がオニになって今日一日あなたたちを追い回します。日が沈むまでに私から生き延びられたら勝ち。私に攻撃をクリーンヒットしても勝ち。各個散会はなし。必ず3人一緒に行動すること。見つからないように逃げるか隠れるもよし。三人協力して、殺られる前に殺るもよし。私が動くのは今から2時間後。ちなみに女性陣は不参加ね。さすがに熊が出る森にか弱い娘を放り込むのはアレだしね」

 生き延びるだの殺る殺らないだの熊だの、物騒この上ない単語がポンポン出てる。

「はい、質問は?」

「拒否権ある?」

「無し」

 龍麻の言葉をスッパリと。

「これはどういった特訓ですか?」

「意味はなし。とりあえずらしいことはやっとこう」

 醍醐の言葉もバッサリと。

「帰りてぇ・・・」

「うっさい」

 すでに質問ではなくなった京一の言葉も一刀両断して、沙希が開始を告げた。

■沙希センセイの特訓メニュー(即死)

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