短編集。
ギャグです。いいのか俺?はじめてまともに動かす主人公がコレで?
「うおおおおおおおッ!!!」 「きゃああああああッ!!!」 「…………ヤバいなぁ」 「危険値、引き続いて増大中であります」 四者四様。 順平は後ろを振り向きつつ雄たけび、ゆかりはただただ泣き叫びながら突っ走る。 そして我らがリーダー真人は、その二人を誘導するように先行しながら、あまり緊迫感の感じられない声で呟き、アイギスはその横にピッタリと併走していた。 もう冷や汗か脂汗か判らないものを撒き散らしながら再び順平が振り向くと、先ほどよりも近い距離にソレはいた。 闇色の身体と、その闇から浮かび上がる白い仮面。両の手には、死を宿した弾丸を放つ長銃。 この世のものではない時間の中、深緑の月光の中に浮かび上がる塔タルタロス。そこに踏み込む者を迎えるは、この時間の中における死の体現者、漆黒の使者『刈り取る者』。 「テメェ真人ッ! どうしてくれるんだよこの状況!!」 よほど後ろから迫ってる存在が怖いのか。常よりも脚の振りが速い順平が真人に並んでいた。 「なんだ? 僕のせいかこの状況は? 気づいたらアイギスの肩に担がれてたから状況がつかめないんだが」 「小休止に移行したとたん、リーダーが熟睡に入ってしまったであります」 「ああ、最近睡眠時間けずってネットゲームしてたからなー」 「前から聞きたかったのですが」 「なんだい?」 「真人さんがやっておられる『デビルバスター・オンライン』というのは、生命活動の基本の一つである睡眠を犠牲にするほどのものでありますか?」 「うむ。すでに過疎化が進み、新しいパッチも細々としたものがときどき事後報告すらなく行われてるほど廃れたゲームだが、オンラインゲームというものには、どんなオフラインゲームにもない特色がある。それがチャットだ。その姿は見えず、声も聞けず、それどころか年齢性別すら確定することのできない存在だが、同じデジタルな世界に確実に存在する他プレイヤー。それらと結ぶ絆は確実にある」 「ふむふむ」 「ぶっちゃけ、主要な街でダラダラとチャットしてるだけでも軽く数時間経っていて『うおやべぇwもう空が明るくなってきてるじゃんwww』、と笑いながらログアウトするのがオンラインゲームだ」 「なるほどなー」 『言ってる場合かーーーッ!!』 いつのまにか、こちらも追いついてきたゆかりと順平の叫びがステレオで。 《死神タイプ、速度を速めました。皆の位置を察知されたようです!》 風花からの通信。今曲がったばかりの角から、異様に長い銃身とそれを持つ腕が見えた。 「やばいやばいやばいッ! そろそろ追いつかちまうぞッ!」 「さすがに準備してないと、まだあれ相手には勝てないだろうからなー」 「緊迫感皆無だなオイッ! ていうか剣はどうした剣はッ!? そしてどうしてポケットに手を突っ込んだまま走ってるッ!? あまつさえ、その状態でなぜ俺たちより速く走れるッ!?」 「鉄面皮は生まれつきだ。剣はアイギスに担がれてるときに目が覚めたらすでになかった。そして、プレイヤー全てが同じようにツッコんだだろうが、僕はポケットに手を突っ込んだまま走り出すと一度とまるまで抜けなくなる。そしてあきらかにバランスが悪かろうこの体勢で速度が落ちないのは、まあ明日への希望に満ちた僕の潜在能力の発現なのだろう」 「律儀に返しながらほんのり異次元なこといってないで、なんとかしなさいよぉぉッ!」 「ラジャー。アイギス!」 アイコンタクト。 深い紺の闇に浮かぶ青い月のような瞳を見た瞬間、アイギスは彼の思考を一欠けらの欠損もなく、自分のものとする。 速度を落とし、再び遅れ始めた順平と並ぶ。 「順平さん」 「な、なんだッ?」 「幸運を」 まったくの無表情のままそう呟き、五連ガトリングな拳で親指をグッと立てて突き出す。 そして。 「オワッ!?」 順平の足を引っ掛けた。 無様な姿勢で床を滑走するようにダウンする順平。 「全速前身」 「了解であります!」 「てか、いいのッ! アレいいのッ!?」 「大丈夫!」 真人の声は、自信に満ちていた。 「メガテンシリーズで最重要なのは主人公が死なないことだから!」 順平生存に対する自信は寸毫も含まれてなかったが。 「ウオオオオオッ!!!」 「お?」 背後から届く雄たけびに真人が振り向くと、目を血走らせてオリンピック記録が出せそうな速度で追いついてくる順平の姿があった。 「おお、しぶとい」 「しぶとい、じゃねぇぇぇぇぇぇッ!!」 ーBLOCKー 「…あぶないじゃないか」 「テメェがいうな!! テメェが言うなよ! もっかい言うぞテメェだけは言うなそのセリフ!!」 ペルソナの斬撃無効スキルで両手剣の攻撃を防いだ真人に、順平が怒鳴り散らす。 「順平、キミにはツッコミよりボケが似合う」 「今のオマエ相手なら、誰でも○村ツッコミと化すわッ!」 「てか、今アレに追われてんのよッ! なんでこんなときまで冷静なのキミは!?」 ゆかりの言葉に、真人はフッ、とため息にもにた小さな笑いをこぼす。 「これを書いてる男は物語中盤あたりでさえ、アレの存在を忘れてシャドウ殲滅が終了したエリアでポーズもかけずにトイレに行って、戻ってきたらアレとの戦闘画面に入ってたっていう猛者だよ? しかもエスケープしようとしたら動揺してて誤ってアタック敢行>1ターンキルをくらったというオチつき。追いかけっこぐらい慌てることじゃないさー」 「キミの頭の中、どっかの異次元に繋がってる?!」 「しかし、走り回ってるのに階段もターミナルも見つからないね」 ゆかりの叫びは完全にスルーして辺りを見回してる。 「なぜかなー。分岐点では9割がた、階段とは別方向にすすんでしまうだよね僕」 「むしろ、袋小路に追い込まれて無いのが奇跡であります」 「――アイギス、あれをぶち破れ!」 「了解であります!」 真人が指差したのは、巨大なガラス戸。 瞬間的に速度を加速させたアイギスが跳躍。銃の指が突き出され、一つに重なる十の射撃音が無数に連なる。 「ゆかりちゃんッ、順平ッ! 飛び出せ!」 ガラスが派手に砕け散り、生暖かい風が流れ込む穴とかしたそこから、真人とアイギスが外に飛び出した。 「えッ? えッ?」 「な、なんだッ?」 わけもわからぬまま、二人もそれに続く。 「――うおッ!?」 「きゃあッ!」 飛び出し、着地した場所は、かなりの崖っぷちだった。身を乗り出しかけたゆかりの腕を真人が掴み、引き寄せる。 「あ、ありがとう」 「どういたしまして」 「頬を赤らめる女子に紳士的な態度で微笑む姿に少しじぇらし〜なアイギスでありますが、ところで順平さんがけっこう絶体絶命なのですが、放っといていいのでありますか?」 「た〜す〜け〜て〜」 アイギスが言ったとおりの状態の二人の足下で、崖っぷちに必死の形相でぶら下がっている順平だった。 《皆、どこにいるんですかッ? なんだかタルタロスの少し外にいるように感じるんですけど?》 「うん、まさにタルタロスの外だよ」 《え、どういうこと―――、死神タイプの反応ッ、皆さんのすぐ側ですッ!?》 振り向けば、飛び出した出口の向こうに、あの長銃が見えた。 「よし、飛び降りるぞ」 『はッ!?』 ゆかりと、なんとかよじ登ってきた順平がハモった。 「だから、ここから、下まで、飛び降ります」 「アホかッ!? 死ぬわッ!?」 もう余裕がかけらもなくツッコミがよりストレートになってきてる。 「大丈夫。メガテンシリーズなら最悪でもHP1になるぐらいだから。そら逝け♪」 鉄面皮な男がかなりレアなさわやかな笑顔で、アレなことを言いつつ順平を蹴り落とす。 「テメェ今逝けっつったろぉおおおおおおおおおぉぉ―――」 順平の叫びの余韻をききつつ、真人はゆかりを担ぎ上げる。 「ちょ、ちょっと!」 「……」 すぐ背後に死の体現者の凶手が迫っているというのに、ゆかりは頬をさらに赤らめ、アイギスは瞳に視線だけで人が殺せそうな負の感情を宿していた。 「俗に言う『お姫様抱っこ』であります」 「いくよアイギス!」 「嫉妬という感情を理解しつつ、了解であります!」 二つの影が底の見えない闇に向かって飛び出した。ガラスの存在しないガラス戸から身を乗り出した『刈り取る者』の手が真人の背中を掠める。 「……」 浮遊感。 上も下も区別がつかなくなるような感覚の中、華奢だけどなぜかたくましく感じる腕と、見上げればそこに在る、こんな状況でも微塵も揺るがない瞳に、不思議と恐怖は感じなかった。 だが、 「もうこんなの嫌ーーーーッ!」 やっぱり、それだけでは納得できなかった模様。 ■ ■ 「無茶苦茶だな…」 美鶴が右手で顔を覆う。 全快まで回復したはずの順平とゆかりがいまだにへたばっている。精神的な疲れだろう。 真人は「なにが?」といった顔で立っていた。 「真人さん、次に同じ状況になったら、今度はアイギスに『お姫様だっこ』をお願いしたいであります」 「おっけー」 軽く請け負う。美鶴はその姿に、 「まあ、あの危機を脱したんだ。頼もしいリーダーだ」 言葉に反して、表情は『人選ミスったかなー』といった感じだった。 「ということにしておこう」
-END- |
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制作1時間半。なんだろう、書き易かったよスゴク。 パソコンの前に座ってていきなり書きたくなったのだが、大本は、主人公のあの走りに対するツッコミと、アイギスに「なるほどなー」と言わせたかっただけだったりします。 |