Arch-enemy

宿敵

「こんにちは、神耶さん。そして、まだ名もしらない《星》の持ち主さん」

 人の存在しない空間、民家の瓦屋根の上には一週間前と同じように全身をローブとフードで覆った《女》が立っていた。

ザッ!

 私と師黒真人は、戦闘態勢をとる。

 師黒真人が学生服の右袖をめくり上げる。右手の《凶星》を隠すための包帯は肘まで覆っている。

「・・・」

 袖をまくった左手の人差し指が、肘から右手の中指までを一閃、包帯をなぞる。

 それは、七香ちゃんから師黒真人に渡された装備の起動キーとなる行動。包帯が瞬時に赤く変色し、接合変形膨張を行い、別の形をとる。

「へぇ・・・」

 《女》が軽い驚きの声をもらす。師黒真人の右腕の包帯は、数秒でバトルグローブへと変じていた。

 だが、《女》が驚いていたのは、そんなことじゃない。その視線は、グローブの甲部分から覗く、黒い勾玉。師黒真人の右手に融合した神石《凶星》だ。

「いっつも夜にばっかり現われたてたのに、どういう心境の変化かなー」

 精一杯に皮肉げな笑みを浮かべながら、私は鞄から一枚の板を取り出した。四辺20p、厚さ5oほどのその白い板に指を添える。

 バッテンを描く様に、指を走らせた。

バシュッ!

 白い板が、はじける様に無数の帯へと変じ、私の身体に巻きついていく。そして、師黒真人のグローブと同じようなプロセスで、私の身体は白いコートに纏われていた。

「・・・相変わらず趣味的ねー」

 屋根の上にいる《女》が、あきれたような声で言った。

 師黒真人がコクコク頷いてる。

「うっさいッ」

 私だって恥ずかしいですヨッ! こんな一昔前の変身ヒロインみたいな装着方法はッ。七香ちゃんに、呪文を唱える機能(音声認識)にさせなかっただけでも精一杯だったんだからッ!

『このコートはねー、普段はこういうふうに板状なんだけど、七香ちゃんの声紋で『魔法の呪文ルルラリルララポップンパラリララー魔法のコートになぁれ♪』と叫ぶと、自動装着されるのよー♪』

『嫌じゃーーーッ!』

 小一時間ほど攻防を繰り返し、なんとか今の起動方法に変えさせたのだったー。

「って、そんなことより!」

 力場展開。私の周囲にエネルギーが満ちる。

「・・・」

 師黒真人も、《凶星》の起動を開始した。

 私の《月の人》としての能力は力場操作。自身の生体エネルギーと神石《聖星》の内在エネルギーを操作し、攻防に応じて変化させることができる。

 そして、師黒真人の能力は、《月の人》の能力としてはポピュラーな身体能力の高さ。常人離れしたそれは、神石《凶星》のエネルギーを上乗せすることで、超人レベルにまでひきあげることができる。

「やる気マックスなのはいいけど、今日はとりあえず戦う気はないのよねー」

「はぁッ?」

 《女》は肩をすくめ、師黒真人に視線を向けた。

「えーと・・・、この間はごめんなさいッ」

 バッ!と《女》が頭を下げる。

 ヒュンッとテンションが急激に下がったわ。

「まさか、あそこで神耶さんをかばうとは思わなかったから・・・、ごめんね、怪我させちゃって」

「・・・」

 頬をかいてる師黒真人。

「これでも、今まで一般人には危害はくわえないように気をつけてたつもりなのー。夜、神耶さんたちが単独で行動してるときにしか狙わなかったりね」

 これは本当だ。この《女》は、わざわざ《人払いの結界》を用意したり、私と父様が二人だけでいるときを狙ったりと、極力周囲の目がないところでしか戦わない。

 おかげで、私たちが《月の人》とかいう正体が露見せずにすんでいるのだが。

「まぁ、とりあえず」

 私は力場を操作し、直径1pくらいのエネルギー球に変えた。

「隙ありぃ!」

 奇襲!

 指向性をもって開放したエネルギーは、閃光となって空間を薙ぐ!

バシュッ!

「むッ?」

「・・・不意打ちとはお行儀悪くない?」

 私が放った閃光は、《女》の前で散って消えてしまった。まるで強固な壁が不可視に存在するかのように。

「――え?」

 いきなり《女》がポカンと。視線は私の横手に向いている。師黒真人が立っている場所――立っていた場所。

「――え?」

 私も、まったくおなじ感じに。師黒真人の姿はすでに私の横にはなかった。

タンッ

 師黒真人が屋根の上に降り立つ。私と《女》の意識から自分が外れた瞬間、跳躍していたようだ。

「・・・」

 緊張が走る。私と《女》だけだが。

 師黒真人は相変わらずの無表情で、着地のときの身体を沈めた態勢で、《女》の動きを伺っている。

 《女》の動き一つで前後左右、攻勢防御退避どうとでも動ける体勢であるが、同時に突っ立って上を見上げているよりは楽な体勢でいるだけにも見えたりする。

「・・・」

 《女》が右手をあげ、掌を師黒真人に向ける。師黒真人は表情はそのまま、ただ、体勢はわずかにかわる。ほんの少しだけ腰がさがり、全身のバネが押し込められ、次の挙動のためのエネルギーをためていた。

「・・・・」

 私はその姿に少し違和感を感じていた。

 私は二つの神石の守人として、《聖星》の適合者として、訓練をつんできた。あの《女》が現われてからは、経験もつんできた。

 たが師黒真人は、一般人だ。たとえ《月の人》であっても、その能力によって常人よりすぐれた身体能力をもっていたとしても、一般人なのだ。

 なのに、初めて会ったときは異形溢れる場で。今は、正体不明の《敵》を前にして。

 師黒真人は、畏れるでもなく昂ぶるでもなく、ただ無表情に存在した。

「師黒真人…さんでいいわね?」

「・・・」

 数瞬の間をおいて、師黒真人が頷いた。

「ちょっと、なんであんたがその人の名前しってるのよ」

「フフッ、それくらい調べはついてるわよ、神耶さん」

 あ、なんかその笑みムカつく。余裕ぶっこいた感じが。

「ホントに神石譲っちゃったの? 永智さんは今どこにいるのかしら?」

「アンタには関係ない」

 エネルギー多目で力場を収束。私の右掌の上に野球ボールほどの光球が生まれる。

 高速で撃ち出し、着弾と同時に爆発する《砕弾》。武器を持ってない今の私に使える攻術の中では、威力が高いものだ。

「今は戦う気はないんだってば。すぐに消えますよ」

「いつも勝手に仕掛けてきて、こんなときまで勝手いえるとおもうんじゃないわよッ」

タンッ

『!?』

 師黒真人が、《女》との間に割り込むように、私の目の前に降り立った。

「な、なんで邪魔を」

 サラサラと。いつもどおり何かを書いたメモ用紙を私に見せた。

「・・・ここでやると家が壊れる?」

「―――あははッ」

「笑うなソコッ! アンタもそんなこと言ってる場合じゃねーでしょう!?」

 師黒真人は困ったな、という感じにこめかみの辺りを掻いている。

「そうね。私もそのルーキーさんの《力》を見てみたいし、どう、今夜あたりにバトルってみますか?」

「なんですって?」

「場所は、そうね。私たち三人が初めてそろっていた場所。師黒真人さんの庭で」

 《女》の身体が光に覆われ始めた。

「9時ごろがいいかしら。まあ、あそこに人目があるともおもえないけど、人払いを行うならそちらでヨロシクおねがいしますネ」

バシュッ!

 いきなり光量がまし、私たちは目を腕で覆っていた。

『では、のちほど』

 妙に弾んだ声とともに、光もろとも《女》の姿は消えていた。

■黄魅邸――神耶の部屋

「あら、ワタシが留守にしてる間にそんな面白いことがあったんだ?」

「面白くないってば」

 私用とかで留守にしていた七香ちゃんが部屋にきて、私の話をきいてそんなことを言ってくれやがった。

 私は、《女》のことを考えるだけでムカついてるっつーに。

「それはそれとして、ここに・・・」

 七香ちゃんが大きな封筒を手にしていた。

「師黒真人くんのプライベート情報が収められています」

「は?」

「いや、真人くんがどんな《月の人》なのか確認するために、いろんな情報集めさせたんだー。まだ不足分がありそうだけど、とりあえず一般人的な真人くんの、訴えられたら普通に負けそうな程度の情報は入手しましたぜ旦那」

「なに、その私が仕向けたみたいな小芝居」

 ときどきそういうことやってるのはしってるが、イリーガルな人だな相変わらず。

「見る?」

 ・・・・・・・・・まあ。正直興味はありますデス。

 あんな人間がどうやって出来るのかその履歴を見てみたいデスはい。

「見ていいの?」

「ダメー」

 満面の笑みを浮かべながら、両腕でバッテンを作る七香ちゃんコノヤロウ。

「この世にはプライバシーの保護という概念があるのですゼ」

「報道の自由という言葉もありますヨ」

 てか報道?

「ていやッ」

シュバッ!

「あ」

 次の瞬間、封筒は私の手にあった。これでも《月の人》。運動不足の七香ちゃんでは手も足も出まい。

 私はササッと封筒の中の書類を取り出した。

「・・・・・・」

 一番上にあったのはB5サイズに引き伸ばしてある写真だった。その中央にはそっぽを向いた黒猫の姿が一匹。

「・・・・・・」

 次の書類。やっぱり写真で、黒猫の尻尾らしきものが映ってる。どうやらシャッター押す瞬間に動いたらしい。

 次の写真。もう書類とはいわん。黒猫が映ってるのはわかるがブレてる。どうやら逃げ出したところをあわてて撮ったらしい。

 次の写真。どこにも黒猫の姿は見当たらないし、ブレてる。そして傾いてる。どうやら走りながら撮ってるようだ。

 次の写真。今度は映っていたが、かなり遠い。

 次の写真。もっと遠い。

 次の写真。近づいた。端に見慣れたものが映っている。七香ちゃんが地下研究施設の移動にときどき使ってるキックボードだ。どうやら自走での追跡は無理と踏んだらしい。

 次の写真。屋根の上に黒猫がいる。こうなると七香ちゃんには追いかけれないな。

 次の写真。屋敷のセキュリティールームで、無数のモニターを見ている七香ちゃんが映ってる。監視映像に黒猫が映っていないか確かめているところを、助手の笹中(ささうち)さんにでも撮られたんだろう。

「ゲッ、除けておいたとおもったけど、まぎれてたか」

「・・・・・」

 まだ何枚かあったが、とりあえず床に置いた。

「・・・これは?」

「神耶ちゃんの行動はお見通しということで♪」

 くっそう。

 これ全部、師黒真人のネコの写真じゃん。

「で、それはネコちゃんの調査書」

「なにが調査書か」

 と、何気にまた手にとって見た写真の中に本当に書類が混じってるのを見て、目を通してみた。

「・・・・・・」

 半分以上なにが書かれてるのは解らない。例によって暗号にしかみえない文字列数字列。が、なにを示すものかはわかった。

「とりあえず、ホントにネコなんだね。あの黒猫の名前」

「まずそこから入るのね神耶ちゃん」

 いや、かるくツッコんで心をほぐしてみました。

 ちなみに、師黒真人が買っている猫の名前はネコ。ヒネりがないどころか、飼い主失格クラスのいい加減さである。

〈いつの間にか住み着いてて、姉がネコネコ言ってる間に定着していた〉

 と、いうのが師黒真人の談(筆)。

「で・・・、あの黒猫も《月の人》ってこと?」

「猫だから《人》と呼ぶかどうかはともかく、ルーツは神耶ちゃんたちと同じね」

 つまり、月にあった文明に在った存在。その末裔。

「猫又あたりになるのかな?」

「たぶんね。まあ、尻尾が2本あるわけでもないから、微妙だけど」

 妖怪・怪物・妖精。なんでもいいが、そういったモンスターの類。有名なところでは吸血鬼、狼男、日本では河童や天狗など、そういった空想上の生物とよばれる存在。

 それは一部ではあるが、たしかに実在するのだ。

 私のような超能力とか俗によばれる能力だけではなく、肉体的にも純粋な地球人とは違う《月の人》。七香ちゃんの説によれば、能力を強化、あるいは特化することによる肉体変化を起こした者の末裔なのではないかということだ。

 そして、その末裔は人だけではなく、動物にもいる。

 ネコもその一匹なのだろう。

「もしかしたら。ね、神耶ちゃん」

「ん?」

「真人くんは、ネコちゃんのことを知ってるかもしれないよ」

「・・・」

 あるいはそうかも。

「いや、《月の人》とかそういう話ではなく、ネコちゃんが普通の猫じゃないって話」

「うん、解ってる。だって」

 そうでなければ、今の非日常に慣れるのが早すぎる。

 師黒真人はけっして感情がないわけじゃない。感情の揺れ幅が常よりかなり小さく、しかも表情として出ないのだ。この一週間だけの付き合いでも、それくらいは理解した。

 つまり、恐怖や困惑といった感情もあるはずなのだ。

 なのに、師黒真人はそれをわずかにも見せずに、非日常へと踏み込んだ。

「もともと私たちのいる非日常の一部を、ネコを通して知っていた」

「そういうことね」

 ふいに七香ちゃんが視線を外した。

「ときに神耶ちゃん」

「なにかな七香ちゃん」

 私も視線を追ってみた。天井近くにある壁掛けの時計だ。

 時刻はPM9:35

「約束の刻限は過ぎてるんでなくて?」

「ふッ・・・」

 ちょっとニヒルな感じに笑みを作ってみる。

「誰も行くと確約してはいません」

「ブッチするわけね」

「たまにはねー、あっちにも苦虫を噛み潰してもらいたいのですよー」

 いつものらりくらりひらりはらりと逃げられてて、こっちはストレスたまってるのであるし。

「子供だー」

 うっさい。

「さて、ワタシは調べものの続きでもしましょーかねー」

「調べもの?」

「真人くんの屋敷のことを調べてたら、彼のルーツに結びつきそうな書物が何冊かあってねー。それを検証してみてるところなのよ。ああそうそう」

 部屋を出ながらそんなことを言っていた七香ちゃんが、ヒョコっとしまりかけたドアを手でとめて、部屋にまた入ってきた。

「ネコちゃん知らない?」

「居ないの?」

「昨日から見かけないのよねー。真人くんは心配いらないとしか言わ・・書かないし」

 と、そのとき部屋の電話が鳴った。2秒ほどで途切れる。外線表示が出てるから、どこかのほかの子機で、誰かが電話にでたのだろう。

 と、すぐに、さきほどとは違う音色で電話がなった。屋敷内のほかの電話からの内線通知だ。

 電話に手を伸ばす。視界の端では、用はすんだとばかりに部屋から出ていく七香ちゃんの姿がみえた。

「あ、スィルさん。え?」

 この屋敷のメイドのスィルさんだ。

 私宛ての電話らしいが、なんか相手が自分の名前をいわず、『神耶さんを出せば解ります』と言ってるらしい。

 つーか待て。もしかして・・・。

「・・・もしもし」

 こっちの子機に繋いでもらい、電話に出る。

 そしたら、ほとんど叫びに近い声。

『ちょっとッ、なんでこないのよッ!!』

 間違いない。あの《女》だ。

 普通に電話かけてくるなよ非常識な。

「へっへーん。昼間も言ったけど、なんでアンタの勝手に付き合わなきゃいけねーのよ、ってなもんですよぅ」

 うむ。子供だな、私。七香ちゃん言われるまでもなく。

『く・・・、まさかそんな大人気ない態度にでるとは・・・』

 ふッ、勝った・・・。なかなかに虚しいけど。

「ところでアンタ、なんでここの電話番号知ってるのよ」

『はい? 普通に電話帖に乗ってましたよ?』

「・・・・・・うん、普通に電話帖調べて電話してきてるのねアンタ」

 なんていうか、微妙な気分になってしまう。

「とりあえず、今日は気分じゃないので、お誘いはお断りしますー」

『あ、ちょっと神耶さんッ、こら、神耶さん聞いてるのッ!? 聞いてるんでしょッ! 答えなさいヨッ、コラーーーッ!』

ピッ

 通話を切り、子機を台座に置く。

 あの《女》、地はわりと乱雑とみた。つーかいつもの慇懃無礼さは、演技か?

「神耶ちゃんーッ!」

「うおあッ!?」

 いきなり七香ちゃんが部屋に飛び込んできた。

■同刻――師黒家

「たくッ」

 いかんいかん。つい地が出てしまった。

 しかし、神耶さんめ。いつもの仕返しというわけですか。

「・・・」

 私は、あの男――師黒真人の家の屋根の上でおろした。布越しにひんやりした瓦の感触。

「大きい家ですね」

 あまり人が踏み込まないこの森の中に、屋敷といえるほど広い一軒家。今は人っ子一人おらず、周囲の状況も手伝って、かなり不気味な雰囲気をかもし出している。

 ここに一人ですんでるわけですか。

 情報によれば、姉がいるはずだけど、あまり家にはいないらしい。なかなかさびしい状況ではなかろうか。

タンッ

 屋根からかるく跳んで、重力に逆らうようなスローな落下で庭に降り立つ。

「見た目どおり」

 古い屋敷だ。玄関の鍵も古めかしい。《力》を使ってたやすく外せる。

「お邪魔しま〜す・・」

 誰もいないし、不法侵入なのについ言ってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 とりあえずトコトコと部屋を見て回る。ほぼ男一人の生活だからもっと乱雑な様子だとおもってたけど、意外に整理されている。

 数日家を空けてるはずなのに、それほど汚れというものは目に見えない。マメにこの屋敷を掃除するような性格なのだろうか。

「・・・お」

 いままで見てきた中で一番生活のにおいがする部屋。といっても、普通に想像していた男子高校生の部屋、というものよりかなり片付いてる。

 ベッド、ガラステーブル、40インチぐらいの薄型テレビ、肩ほどの高さまでの本棚が二つと、パッと目に付くのはそれぐらい。

 本棚に文庫が並べてある。マンガマンガしたイラストのライトノベルから、すでに故人となった文豪のモノ。探偵もの、SFもの、ジャンルまで様々幅広くて、趣味が逆に読み取れない。

「・・・」

 他に目に止まる様なものもなく、私はドアのすぐ横にあるスイッチを押して部屋の電気を消し、廊下に出た。

「―――ッ」

 心臓が大きく跳ねた。

 無人のはずの屋敷。そこに一人の少年がたっていた。

「・・・・」

「・・・・」

 黒いニット帽に、肩から袖まで一本白い線が入っただけのシンプルな黒のジャージ姿。窓から差し込む月明かりの中に浮かぶ姿は黒尽くめ。

 釣り目がちの目が私に向けられている。

「あ、なたは?」

「我はこの屋敷の守護者だ」

「守護者?」

 10歳前後ぐらいの子供はしごく真面目にそう言った。

「この屋敷と屋敷の者に危害をくわえるような輩なら排除するぞ」

 一笑にふしてしまいそうな幼い声による宣言。だが、私の感覚が危険信号を発していた。

 小さなその身体が発する気配は、あまりにも人離れしている。

「あなたは・・・《人》じゃないのね?」

「うむ」

 素直にコクリと頷く。

「で、キサマはこの屋敷の敵か?」

「・・違うと思うわ」

「そうか。ならば彩奈の友か?」

「綾奈?」

 聞いたことがあるような・・。ああ、師黒真人の姉の名前か。

「違うのか? ならば真人の友か?」

「まだ知り合ったばかりだけど、もしかしたら友人になれるかもしれないわ」

「そうか」

 身体のうちから発せられた危険信号が途絶えた。コロリといった感じに、少年の気配が和らいだ。

「・・・不法侵入者なのに、素直に信じるのね」

 守護者と名乗っているなら、そのとおり、この屋敷を護るためにいるのだろう。

「キサマは嫌な感じがしない。我は鼻が利く」

 神耶さんが聞いたら眉をひそめそうなセリフね。

「ん? そういえばここに戻る途中、鉄クズでできた人形がいたが、アレはオマエの人形だろう?」

「え?」

 鉄くずの人形。て、擬似付喪神のことよね?

「斬っておいた。スマン」

「はッ?」

 切手置いた? いや、いけないいけない混乱した。

「斬った? あなたが?」

「最初にキサマに敵か?と聞いたのは、あれがキサマの《力》で形作られたモノだったからだ」

 少年の気配が変わった。先ほどよりも強い攻撃的な気配。

「もう一度聞く。キサマはこの屋敷の・・・真人たちの敵か」

ジャキッ

 いつの間にか、少年の両手に一対の短剣が握られていた。爪か牙を連想させる、鋭い刃。

「・・・いまのところ敵ですね」

 この瞳は、嘘を見通すモノだ。嘘をついた瞬間、たぶん私は斬られる。

 さすがに私にもわかる。この子は《人》よりも強く在るもの。

「でも、面白い人だから、戦いたくないわね」

「そうか」

 少年が両手を振ると、手品のように短剣が消えた。

「ならいい。今日は見逃す。次は友としてこい」

「友?」

「真人の友だ。真人と彩奈の友は、我の友だ」

 少年が私に背を向けた。そのまま歩き出す。

「貴方の友として来ちゃダメ?」

「真人の敵なら我の敵だ」

 にべもないや。

 廊下の角に少年の姿が消える。

「・・・・」

 私はその後をおい、廊下の角を曲がった。

「・・・・・」

 月の淡い光の中にいたのは、黒い少年ではなく、一匹の黒猫。その猫は、一度こちらを振り返ると、タタタッと月光の下から闇の中へと消えてしまった・・・。

「あー、いたーッ!」

 黒猫が去ったあと、私は師黒真人の屋敷を出て森の中にはいった。

 それとすれ違うように現われたのは師黒真人。そしてすぐにバンに乗って現われたのは摩白神耶。

 森の中で気配を消しながら様子を伺うと、喧々囂々。

「なんで、あんたは、ここに、来てんのよッ! 行く必要ないって言ったでしょがッ!」

「・・・」

 師黒真人がメモ用紙を見せている。

「・・・敵が勝手に約束したことなんて護ることないでしょーーーッ!」

 なるほど。神耶さんに言われて時間がきても黄魅邸を出なかったが、やはり約束をやぶるのはいけないことだと、とりあえずやってきた、といったところか。

 おもったとおり面白い人だ。

「にゃー」

「お? ネコじゃ――」

「ネコちゃーーーーんッ!」

 うわ、七香さんが神耶さんが押しのけて黒猫に飛び込んだ。

 あ、黒猫かわした。おー、顔面スライディングだ。

「激写ーーッ!」

 うわ、めげないよあの人。

「続・ダメな人・・」

 続って・・・。

 私は気配を抑えたままその場を離れた。

「・・・・あら〜」

 屋敷から離れたところに待機させておいた擬似付喪神たちが、どれもこれもバラバラだった。ゴミ山から作ったとはいえ、鉄製の身体が切り裂かれてる。

「まあ・・・、そろそろコイツらじゃ面白くないと思ってたしね」

 そろそろ次の段階に進むべきかな。

 《凶星》と《聖星》。黒白の双子星がそろい、こちら側も行動を起こすときかもしれない。

「とりあえず、今日は・・・私も気が乗らないし帰りますか」

 私は木々の向こうにいる黒猫くんにサヨナラと呟き、帰路についた。

 なんとなく、ニャ〜と黒猫くんが返してくれたような。

RETURN

あとがきのようなもの

◇魔法の呪文ルルラリルララポップンパラリララー魔法のコートになぁれ♪

 なんだろうねコレ? とくにポップン〜あたりが殊更馬鹿っぽいな。言いにくいし。

◇コートの自動装着プロセス。

 月に代わっておしおきする美少女戦士あたりです。そういえば私、アレをまともに見たのは全シリーズ通して2、3回のみです。なのにどんなのか知ってるあたり、有名どころって違うねー。アニメ特番あたりでアルプス少女やアライグマあたりと並んで紹介されるし。
 ちなみに、コート自体はFF11の装備を簡略・変形させたものです。つうか、もっと模様描き込んであったのに、スキャンした本描きには描き忘れてたアップ直前・・。まあ次の機会にしよう・・。

◇ふと思ったこと

 女キャラばっかだ――――ッ!! レギュラーキャラの登場、早めようかな・・。
 しかし、神耶イラスト、女に見えなくなったかな・・胸控えめにしすぎたか。

 そういえば、まだ真人のバルトがないな・・・。

◇謎の少年

 まあバレバレ。少年にしたのは萌えというものに対するちょっとした抵抗だったりします。