例会・研究会ダイジェスト 【講演】
「eビジネス発想の原点〜事業の再構築とIT活用〜」
株式会社まるまん 代表取締役 山岸 利基氏

まるまんの誕生から現状

 私はeビジネスのプロではありません。若干ITについてアイデアがございまして、それを今ご紹介してくださいました岸さんにたまたまお話しする機会があり、このような場を作っていただきました。私の預かっている会社は、今非常に苦しい状況にあります。その苦しい状況をどうやって再構築していこうかと一生懸命考えている中で、ITを使うことで現状を打破できより良いものができるのではないかという発想がでてまいりました。本日は、ここで「事業の再構築とITの活用」についてお話するとともに、その発想の原点となっている私個人の足跡についてもお聞きいただければと思っています。

 私は「株式会社まるまん」という会社の代表取締役をさせていただいています。しかしこの社名をご存知の方は少なくて、領収証を書いていただく時にも、ほとんどの方はカタカナでマルマンと書かれます。この会場でも私どもの社名をご存知の方は半数もいらっしゃらないと思います。

 私は昭和29年生まれで46歳。昭和30年代半ばには家はもうスーパーをやっていました。これが「まるまん」です。当時は規制が強くて、青果物も肉も魚もなかなか卸していただけないのが実情。まさしく今でいうベンチャーの苦労をしたそうです。そこで親父はスーパーを志す人達と一緒になって、ボランタリーチェーン・「北陸チューリップチェーン」を立ち上げました。今それは「スパー(アルビス)」となっています。会社自体は非常に厳しい状況です。私が社長になる前に1店舗を閉め、社長になってからも1店舗、近々もう1店舗閉める予定です。高くジャンプする時には一度しゃがまなくてはいけませんから。

事業の再構築

 実はこの状況はうちの会社だけではないと思っています。というのは、社会構造が変わろうとしている、社会全体が峠にさしかかっていると認識しているからです。両岸に吊り橋がかかった状態で、綱が一本すでに切れていて、後ろを見ると板が一枚ずつ落ちてきている。板が落ちる前になんとか渡りきってしまおうと、皆が頑張っているのです。何を捉えどう動くかという「戦略」を注入することで、会社を右肩上がりにして元気を取り戻させてやりたいのです。

 さてお客様を逃す最大の原因は、企業が「自分達が満足を提供している」と錯覚していることにあると思います。実際にはお客様はそう思っていらっしゃらない。スーパーというのはこれまでずっとこの姿勢でした。私は富山に戻ってくる前に、東京・吉祥寺で「owl's nest」という店を開いていました。ここでは逆の発想で「やすらぎ」を提供しようと思っていました。扱っている商品は衣類、雑貨、書籍、ポストカードなどですが、自分も含めてやすらぎを感じてもらいたいと願ったのです。全ての人が山に登れば自然は壊れてしまいます。だから実際にアウトドアに出かけなくてもこの店で自然を満喫する疑似体験をしてもらいたいと思いました。自分の想いが優先したばかりに、採算には乗るか乗らないかでしたが、良い経験をさせてもらいました。衣料ではお客様の肌の色、趣味、嗜好、それに去年買っていただいた商品を念頭に、この方には今年この色のシャツを着ていただこうと、外国から取り寄せていました。そのお客様が来店された時初めて、その商品をそのお客様だけにお見せするのです。One to Oneマーケティングをしていました。

時代は「工業経済中心社会」から「サービス経済中心社会」に

 ですから富山に来てスーパーの実態を見て、こんなひどい商売はないと思いました。工業経済中心社会の中で、製品はメーカーから問屋さんを通ってスーパーに入り、私達はそれを並べるだけ、さあ、買って下さい。それで完結していたんです。工業経済中心の社会では製品の幅も奥行きも少なく、並べているだけで商売ができたんです。ところが、現在のサービス経済中心社会では、洗濯機一つをとっても夜洗いたい人は静かなタイプを好むであろうし、家族の多い人は大きな洗濯槽を選びます。こういう時代にただ並べるだけの商売を続けているからうまくいかなくなるのです。

 「欲しいものが欲しい時に手に入る」ということが大切になってきます。例えば山の方に住んでいる友達に、イキのいいハマチをお土産に持って行ったとします。とても喜ばれて1,000円くれました。だけど4月にもう一度ハマチを持って訪れたときには、さほど喜ばれなかった。入学のシーズンには鯛であればもっと喜ばれたはずです。

 またもう一つの例として、よく会社で話すのですが、靴の営業で未開の暑い土地に足を踏み入れたとします。人々は裸足で靴をはいていません。さあ、そこであなたはどうするでしょう。さっそく靴を売り始めますか?私ならまず自分も裸足で歩いてみます。裸足で歩いて不都合がなければ売るべきではない。それでも足を痛めたり、タコができたりと靴があったほうがいいと思えた時初めて、彼らにあった靴をご紹介します。川上に立った商売をしたくないのです。

 さて、蒸れてしまうからサンダルがいいはずと、もう一度皆さんの足を観察してみると、なんとこの人達は足の形がフレキシブルだ・・・。枠にはめること自体が間違っている、ああ下駄がいいなと気がついた。しかし下駄となると自分に作るノウハウもない、仕入れのルートもない・・・とすれば、皆さんどうされますか?

私ならあそこに行けば下駄屋さんがありますよと教えてさしあげます。それでは商売にはなりませんが、お客さんはお店を紹介した私に感謝してくれます。今は品揃えがありませんが、仕入れルートを作っておきますので、次回はうちでお願いします、というわけです。不特定多数のお客様を相手に十羽ひとからげにしていたのでは、もう商売になりません。あなたにはこういう趣味、嗜好がありますね・・・と理解するところで、お客様と価値観で並び、お客様は「この店でまあ、いいか」と思うわけです。さらにこのお客様の期待値を、3回に1回、あるいは5回に1回超えてみたい。これを実践していくとお客様→顧客様→固定客様→ひいき客様となってくださるはずです。

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