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【講演】 「人、情報、カネ、モノの新しい循環」
日本海ガス株式会社 取締役社長 新田八朗氏 |
日本海ガス株式会社 取締役社長 新田八朗氏
ご紹介にあずかりました新田でございます。県内で10万世帯あまりの皆様にお世話になっています。心からお礼を申し上げたいと思います。
さて、昨日、GDPが2四半期連続の成長と報道されました。実質4.2%の成長でした。二年前のどしゃぶりの不況は脱したものの、この成長も公共事業への継続的なカンフル剤があってのものです。
あくまで延命措置であって、一方で500兆円、600兆円と国の借金は増えていく。国も、民間も「変わらなきゃ!」と感じているのです。「ではここで何をすべきか・・・」と考える時、IT、eビジネスという最先端の分野をとらえるのが一つ、そしてもう一つは立ち止まって、歴史をひもといてみるのも一つです。
未だに日本が後遺症に苦しんでいる「バブル」も、実は16世紀オランダから繰り返し起こってきています。それでも我々は10年前に同じ失敗を繰り返したわけです。本日は「明治維新」に焦点をあてて、歴史からそのヒントを学んでみましょう。
■明治維新に学ぶ
700年にわたる封建時代が続き、300年という鎖国の時代に終止符を打って、日本が世界にでていく原動力になったのが、明治維新です。以下その足跡です。
1868年:明治維新、五箇条の御誓文
1869年:版籍奉還、横浜−東京間に電信敷設(翌年には電信がヨーロッパまで伝わる)
1871年:廃藩置県、郵便制度開始(新政府がコミュニケーションラインを大切にしていた):岩倉遣欧使節団(岩倉具視、木戸こういん、大久保利通、伊藤博文)
1872年:東京−横浜間鉄道開通、「学制」の配布(教育を重要視)
1873年:第一国立銀行設立、12,558の小学校設立
1877年:第一回内国勧業博覧会の開催
1882年:日本銀行開設、その3年後統一通貨発行
岩倉遣欧使節団とは、日本に革命を起こした、閣僚クラスの重要人物ばかりが1年9カ月も日本を空けて、海外で勉強したというものです。日本の遅れは当時列強に比べて40年と言われており、近代国家に仲間入りするためには、国家のシステムづくりが緊急課題で、時間がなかったのです。遅れた40年を10年〜15年で取り戻すには、欧米列強のいいとこ採りをして、まずは真似するしかなかったのでしょう。
欧米の列強が鵜の目鷹の目で日本を狙っていました。中国も韓国も植民地化されていました。たぶん明治維新の指導者は鎖国時代に止まっていた「人、情報、カネ、モノ」をダイナミックに循環させようと考えたのではないでしょうか。その実践として、53の関所を撤廃、電信を敷設、教育を普及して、人の人生を公平に開いてあげようとしました。
これらの事業を維新後15年で立て続けに実行したことは見事です。現在の不透明な時代に、学ぶべきことが多いと思います。今の閉塞感を打開するにも、この「人、情報、カネ、モノ」を循環させることが肝要だと思います。しかし、明治維新と同じやり方ではいけないわけで、時代にあった視点に変える必要があります。そのポイントは4つです。
■今もキーワードは「人、情報、カネ、モノ」、明治維新から変化すべきポイント
- ●視点1 中央から地方へ(地方政治が必ずしも民主主義的に動いてこなかった)
- 富山の住民には富山に近い政府が、ニーズにあった政治を行っていく。それが民主主義の基本だと思います。ところが地方政治が必ずしも民主主義的に動いてはこなかった、というのが日本の状況です。幸い「地方分権推進法」という法律ができました。
JC時代、私もその制定に注力させてもらいました。国会議員や中央官庁も実はやりたくない、力を持っていたいのですね。地方自治体でもアンケートによると、積極的に推進したいと考えている人間は約3割に過ぎないのです。やはり地方分権の推進は地方の住民が進めていかなくてはいけないのです。チャーチルも言ってるように、民主主義には手間がかかります。
しかし今は「IT」によって、民主主義が低コスト化してきました。先日のサミットで森首相がしていた「電子投票」もその一つです。
- ●視点2 官から民へ、経済の分権(我々はお上やお役人に頼りすぎた)
明治維新のころは官しかなかった。お上が引っ張るからみんなついて来なさい、というスタンスでした。我々はあまりにも長く優秀な中央のお役人に任せきりにしてきました。
その結果、税金としての国民負担率が50%近くになってしまい、このまま続けると70%になるとまで言われています。例えばゴミ処理を民間に委託することで、コストが半分になったという実例もあります。大切になってくるのは我々民間の意識で、「自分達でやれることは自分達でやろう」ということです。IT技術の出番がここにもあります。
アメリカアリゾナ州では、これまでマンパワーでやってきた車の登録作業を、インターネットを使って365日24時間サービスを受け付けるようにしました。コストは1台平均6ドルから、1.6ドルにまで落ちたというのです。
- ●視点3 男から女へ(男女共同参画などの法整備がされてきた)
- 私達はあまりに長い年月、多くのことを男性だけで進めてきました。今男女共同参画とか、男女雇用機会均等法などの法整備がされ、取り組みも進んでいます。こうして女性がどんどん社会に出て活躍してきますと、その結果これまで多くの先進国の中では、少子化が進んできました。
現在日本やドイツ、スペイン、イタリアを除いて多くの国でこの傾向は先止まっています。さて、ネットの世界には「力」は必要ありません。21世紀には女性の社会進出がますます活発になる中で、IT、インターネットの世界で女性はますます活躍が期待されるわけです。
- ●視点4 フロー重視からストック重視へ
- 明治維新のころ、日本の人口は3000万人でした。富国強兵でどんどん人口を増やして、これまでフローが重要視されてきましたが、現在ストックが重要になってきています。また環境問題という背景があります。ベルリンの壁が崩壊して冷戦構造が終わり、ヒューストンサミットが開かれました。「共産主義の実験の時代は終わった。これからは世界民主主義を樹立していこう。さらに最優先事項は、環境配慮型社会へ移行」と、合意されました。
大量生産、大量消費というフロー経済は環境という側面からみても立ち行かなくなってきています。2〜3%という経済成長でなりゆく社会のシステムにしていかなくてはいけないのです。フロー重視から、ストック重視への流れがここにあるのです。
かつて日本では新築住宅が年間160万戸という時代がありましたが、これからは100万戸を切るという状況です。「日本は建てては壊す」ということの積み重ねで、これだけの住宅産業を産み出したわけです。日本では年間100人に1戸、米国200人に1戸、英独400人に1戸の新築があるということです。環境問題からの要請も大きいのです。1件の家を50年、100年と使っていくようなスタンスに変えていかなくてはいけない。そこで住宅産業もリフォーム、修繕という方法で収益をあげる方法を考えていかなくてはいけないのです。これが「フローからストックへ」という流れなのです。
ところで、ストックで生きていくといえば、地下資源のない日本にとっては嬉しい話です。日本には地下資源はない国ですが、ここ何十年どんどん物を建ててきたわけですから、地上資源が実に豊富にあるのです。鉄では現在10億トンあると言われています。これをリサイクルするには非常に都合がよくて、鉄鉱石から製鉄をつくるのに比較して、エネルギーが3分の1で済みます。今ではわが国は地上資源大国といってもいいのです。アルミの場合は200分の1のエネルギーで済むのです。
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