■転校生(1)
1998年―――春 ■真神学園―――3-C教室 「ねェねェ、知ってる? 今日ウチのクラスに転校生が来るってハナシ」 「聞いた聞いた。職員室で、教頭がマリア先生と話してたんでしょ!?」 チャイム前の教室が騒がしい。いつも通りではあるが、今日は一段と、ガヤガヤがうるさかった。 ガラッ! チャイムが鳴るのとほぼ同時に、教室のドアが開き、このクラスの担任であるマリア=アルカードと、一人の男生徒が入ってきた。 「あッ、噂をすれば・・・」 女生徒の一人が、お決まりの『起立―礼―着席』を終えると、マリアが改めて挨拶をかわす。 「GoodMorning Everybodu.」 「GoodMorning Miss. Maria.」 「おはよう。みんな揃ってるかしら。もう知ってるヒトもいるとおもうけど・・・、HRに入る前に、今日からこの真神学園で、一緒に勉強することになった転校生のコを紹介します」 マリアが振りかえり、黒板に『緋勇 龍麻』と書く。 「名前は、緋勇 龍麻クン。緋勇クンは、1ヶ月ほど前に御家庭の事情で、こちらに引っ越してきたばかりなの・・・。わからないトコロが多くて、とまどうかもしれないから、みんな、イロイロ、緋勇クンに教えてあげてね」 マリアが言葉を切ると、それが質問タイムの始まりとばかりに、クラスの女生徒たちが、質問を矢継ぎ早に口にし始めた。 「緋勇くーんッ。血液型は、な〜に?」 「あッ、ちょっとォ、アタシも聞こうと思ってたのにィ。ぜったい、B型よね。あたしと相性バッチリッ」 「あんた、この間も、王蘭高校の如月くんに、おんなじような事いって迫ってたでしょう」 「さあねェ〜」 「あたしも、しつも〜んッ!」 「あたしもあたしもッ!!」 「好きな食べ物はァ?」 「好きな女の子のタイプはッ?」 「お姉さんか妹いるッ?」 「スポーツなにやってんのォ?」 なにやら本人に聞いているのかいないのか、異様に盛り上がるクラスの雰囲気に龍麻が目をパチクリさせながら、質問に答えいてる。 「チョッ・・・チョット、みんな、待って。緋勇クンが困ってるでしょッ。質問は、もう終わりにします」 『えェ〜ッ」 とたんに響くブーイング。マリアは苦笑しながら、龍麻の方を向く。 「ごめんなさいね、緋勇クン。みんな、転校生が珍しくてしょうがないの。さッ、みんな。授業に入りますよ。緋勇クン、それじゃキミの席は・・・」 マリアが教室を見渡し、一つの場所で目を止める。 「そうね。美里サンの隣が空いていたわね。美里サンは、クラス委員長だから、いろいろ教えてもらうといいわ。美里サン、よろしくネ」 ・ ・ ・ ・ ■3-C教室―――休み時間 「緋勇くん」 「ん?」 龍麻が横を見ると、美里と呼ばれた女生徒が声をかけてきていた。 「こんにちは。さっきは、すぐにホームルームに入ってしまって、挨拶もできなかったけれど・・・ごめんなさい」 「・・・・・・・ああ、うん。大丈夫、気にしてないから」 なんだかちょっとした間があいたが、美里は気にしなかったようだ。 「私、美里 葵っていいます。美里は、美しいに里の里。葵は、葵草の葵―――。これからよろしくね」 「俺は、緋勇龍麻。さっき、黒板に書いたからわかるよね? 隣になったのも、なんかの縁だろうし、よろしくッ」 いきなり龍麻が葵の両手をとって、上下に揺らす。いきなりの荒い握手に、葵が驚いているが、無邪気な笑顔につられるように、美里も軽く笑い、微笑み返していた。 「うふふッ・・・、お隣同士仲良くしましょう。学校の事で、わからない事があったら、いつでも聞いて」 「あ〜お〜いッ!!」 「きゃッ」 いきなり、茶髪の女生徒が、美里の背中に抱き着いてきた。驚いた美里が振り向くと、女生徒は意味ありげな笑みを浮かべながら、一歩離れる。 「へへへ―――ッ」 「小蒔―――」 「葵も、やるねェ〜。早速、転校生クンをナンパにかかるとは―――」 「えッ・・・?」 予想もしなかった言葉らしく、葵がポカンとする。その様子を知ってか知らずか、小蒔という女生徒がなにやら頷いている。 「うんうん―――。生徒会長殿も、よ〜やく男に興味を示してくれたんだねェ」 「―――――!!」 その言葉にようやく、意味を掴んだ美里が、いきなり顔を真っ赤にしている。 「いやいや、クラス委員長でしかも、生徒会長なんてやってると、男とは無縁になっちゃうの、わかるけどさ。もうちょっと―――」 「もう、小蒔ッ」 「へへへッ。まァまァ」 ふくれっ面の美里を宥めるように肩をポンポン叩いてから、龍麻の方を見た。 「転校生クン。はじめまして。ボク、桜井 小蒔。花の桜に、井戸の井。小さいに、種蒔きの蒔。弓道部の主将をやってんだ。これから1年間、仲良くしよーねッ」 「うん、ヨロシク」 龍麻はやはり無邪気な笑顔で答えた。やはり、こちらもつられるように満面の笑みを浮かべる。 「うんッ。こちらこそ、ヨロシク。キミみたいな転校生なら大歓迎だよッ。仲良くしようね」 どうやら、初対面での面識は大変よろしいものになったようだ。 「あッ、でもなァ・・・。緋勇クンって、葵みたいなタイプが好みじゃないの?」 「あ、そう見える? さっき声かけられたときなんか、ドキッとしちゃってね」 本人の前で堂々と。 「わかってるって。態度見てれば、一目瞭然だよ。そっか・・・、う〜ん、仕方ないなァ。じゃあ、イイ事教えてあげるよ。ちょっと耳貸して・・・」 「ん?」 いわれたとおり、小蒔の方に耳を傾げる龍麻。 「あのねェ・・・、葵って、こう見えてもカレシいないんだ」 「ほ〜、あんなキレイな子なのに?」 「声は、結構掛けられてるみたいだけど・・・、全部断ってるし・・・、別に話を聞くと、理想が高いってワケでもないんだけど」 「ほうほう」 「緋勇クンなら、イイ線いくとおもうんだけどなァ・・・ねッ」 「ふーむ、そう?」 「へへへッ。がんばりなよ。まッ、いずれにしても―――、恋敵が多いのは、覚悟した方がいいよ。葵派、男に対する免疫がないから大変だとおもうけど、玉砕しても、骨ぐらいは拾ってあげるからさ」 「小蒔・・・。聞こえてるわよ」 なにやら先程より、顔が赤い葵嬢。 「いやァ〜、へへへへッ」 「・・・小蒔ッ」 「緋勇クン、ボク応援してるからねッ。がんばりなよッ!!」 葵の様子を楽しみつつ、小蒔が逃げるように、教室から出ていった。 「あッ、ちょっと・・・、もうッ、小蒔ったらッ!!」 ふと龍麻と目が合う。 「あ・・・あの・・・、小蒔が、変な事いっちゃって。その・・・。ほ・・・本当に、ごめんなさい・・・」 なにやら小さくなりながら謝り、小蒔の後を追った。 「あ〜あ〜、あんなにカオ真っ赤にしちゃってカワイイねェ〜」 龍麻がキョトンとした顔でそれを見送ると、入れ替わるようにして、なにやら細長い袋のようなものを持った男生徒が近づいてきた。 「よォ、転校生。俺は、蓬莱寺 京一。これでも、剣道部の主将をやってんだ。まァ、縁あって同じクラスになったんだ、仲良くしようぜ」 「うん、よろしく」 「こっちこそ、よろしくな。そうだ――――、ひとつ忠告しておくが・・・、あんまり目立ったマネはしない方が、身のためだぜ」 「? どゆこと?」 「学園の聖女を崇拝してる奴はいくらでもいるって事さ。特に、このクラスには―――」 「?」 龍麻が京一の視線を追う。なにやら、ガラの悪そうな一団がこちらを睨んでいた。 「頭に血が上り易い奴らが多いな・・・」 「なるほど」 「まッ、そういうこった。無事に学園生活を送りたいなら、それ相応の処世術も必要ってことさ。じゃ、また後でな」 チャイムが鳴り、京一が離れていく。マリアが入ってきて、2時間目が始まった。
■3-C教室―――昼休み■ 「緋勇くん・・・、あの・・・」 「ん、ああ、美里さん」 購買部にでも行こうかと立ちあがった龍麻が振り向くと、美里が立っていた。なにやら、チラチラと視線を外したり、頬を赤らめている。 「何?」 「さっきは、小蒔が変な事をいって、その・・・ごめんなさい」 「変な事・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」 たっぷり十秒ほど考え込み、ようやく思い出す。 「気にしてない気にしてない。あー、こっちも悪ノリしちゃったし、困らせた?」 「ううん・・・、転校早々、嫌な思いさせちゃったかと思って。そうだ・・・。今日は生徒会があるから無理だけど・・・、明日にでも、学校の事とかいろいろ教えてあげる」 「ホント? ありがとッ、お願いするよ」 なにやら、眩しいくらいの笑顔。 「そんなに喜んでもらえて、うれしいわ。それじゃ」 「うん」 教室を出ていく美里を見送り、改めて購買部に行こうかとすると、今度は休み時間に見た、ガラの悪そうな一団。その中で一番エラそーにしていた男生徒が声をかけてきた。 「オイッ・・・」 「何?」 ガンつけてくる男生徒に対し、普通に対応している。男は数瞬、そのままの態勢で睨みつづけるが、 「・・・・・・・」 「おいっ、緋勇ッ」 「けッ」 京一が近づいてきたことに気付き、舌打ちとともに、緋勇から離れていった。 「よォ」 「やァ」 「ナンだ、佐久間のヤロー・・・・」 佐久間の出ていった扉を一瞥したが、すぐに龍麻に視線を戻した。 「まァ、いいや。どうだ、この真神学園は?」 「んー・・・、気に入った」 ただ一言笑顔で言う。 「はははッ。おまえって、案外イイ奴だな。なんだかんだいって、俺もウチの学校、気にいってんだ。おッ、そうだ。昼メシがてら、俺がガッコん中案内してやるよ。―――ついてきな」
■3階廊下■ 半ば引きずられるように龍麻を廊下に連れ出す。 「さァてと、どこに行こうか?」 「とりあえず、上から順に案内してよ」 「おう、わかった。とりあえず、ここだな。えェ〜とだな。お前も知ってのとおり、俺たち3年生のクラスは、この3階にある。他には、図書室と音楽室ってところかな。へへへッ・・・」 「どしたの?」 いきなりニヤけた笑みになる京一に、龍麻が首を傾げる。 「実はな・・・、この真神学園の図書室には、秘密があるんだよ。聞きたいか?」 「うん」 「くくくくッ・・・。緋勇屋、おぬしもワルよの〜」 「いえいえ、蓬莱寺様には及びません・・・、んで、なに?」 「お前、けっこうノリのイイ奴だな・・・・。ちょっと、こっち来いよ」 二人が廊下の隅に移動し、京一が小声で話す。 「実はな・・・。見えるんだよ。高いトコロにある本を取るとき、台にのぼるだろ? そん時、チラッとな。へへへッ・・・、ちょっとだけさ―――、今から行って―――」 ドンッ! 「い、痛った―――」 「げッ、アッ、アン子―――ッ!!」 教室から出てきた女の子が京一とぶつかってしまう。その女生徒を見下ろした京一は、驚き、一歩あとずさった。 「?」 「チョットォ、どこ見て歩いてんのよッ、まったく―――んッ!?」 立ちあがった女生徒と京一の視線が合わさる。 「きょ、きょ〜いちィ」 「緋勇ッ、俺そういえば、用事を忘れてた。わりィけど、行くわ」 「チ、チョット、京一ッ!!」 「じゃあなッ」 女生徒の制止の声がかかるころには、京一の姿は3階から消えていた。おっそろしい逃げ足の速さだ。 「こらッ、京一ッ! まったく、もォ。逃げ足だけは速いんだから。痛たた・・・。この乙女の柔肌に痣でも残ったら、どうするつもりよッ。あら―――」 今度はポカンとしていた龍麻と目があった。 「―――あッ、ゴメンね」 とりあえず軽く謝ってから、女生徒は観察するように、龍麻のことを見ている。 「キミ・・・、もしかして今日から、3−Cに来た転校生? 確か名前は―――、え〜と、え〜と・・・、そう―――ッ!! 緋勇 龍麻ッ」 「うん」 「へへへへッ。あたし、B組の遠野 杏子。みんなからは、アン子って呼ばれてんだ。新聞部の部長をやってるの―――といっても、部長兼部員ひとりの寂しい部だけどね。へへへッ・・・。よろしくね、緋勇君」 「うん。よろしく、遠野さん」 「オッ!! なかなか礼儀正しいでないの。感心感心。困った時には、なんでもオネーさんに相談しなさい。でも、お金の話は勘弁してよね。ん?」 アン子が腕時計に目を落とす。 「あァ―――ッ!! もう行かなきゃ。センセーに呼び出されてたんだ。じゃ、またね、緋勇君」 「ん、また」 「あッ。そうだッ」 龍麻に背を向け、駆け出したアン子が、すぐに戻ってきた。 「これ、あげるわ」 龍麻に一冊の新聞を手渡す。なにやら、学校新聞の類らしい。 「新聞部が発行してる新聞―――。今度、緋勇君の取材もさせてよね。じゃね」 今度こそ、小気味いい足音とともに、アン子は去っていった。 「ふゥ―――ッ」 入れ替わるように、京一が戻ってくる。 「ようやく行ったか。どうも、アイツ苦手なんだよなァ。わりーな、緋勇」 「なんか、新聞部に知られたら危ないことでもあるの?」 龍麻がたった今アン子にもらった新聞を目を落とす。デカデカとトップに大喧嘩の模様が載せられていた。目の前にいる京一の姿が中心だ。 「・・・・・で、次はどこへ行くんだ、緋勇」 とりあえず、京一は話題を逸らすことにしたようだ。
■2階廊下■ 「2階には、2年生のクラスと生物室がある。そうだ、緋勇。生物室にまつわる、チョット変った話があるんだが」 「変った話? 怪談みたいの?」 「ああ、そんなもんだ。聞きたいか?」 「ああ、是非」 「へーッ」 京一が少し驚いている。 「お前、そういう話好きなのか。3−Cの隣のクラスにも、オカルト好きなヤツがいるけど、案外、話があうんじゃねェか?」 うふふふ〜〜〜 「―――」 京一の背筋に寒気が走る。あたりをキョロキョロしていると、龍麻が不思議そうな顔をしていた。 「ま、まァ、そんな事はいいや。じゃあ、放してやるから、よく聞けよ・・・。別に大したこ事じゃないんだけどな。あの教室にはなァ・・・でるんだってよ」 ・ ・ ・ 「・・・・・・・、俺も、剣道部の部員から聞いた話なんだがな。あるヤツは、真っ白い着物を着た老婆だっていうし、別のヤツは、オカッパ頭の女の子だともいうし・・・、全身毛むくじゃらの悪魔だっていうヤツもいるしで、目撃したヤツの話を集めると、取り留めないんだけどな」 「まあ、典型的な、といえば、そうなるね」 「ホントかウソか・・・。場所が場所だけに、いかにもな雰囲気ではあるけどな。俺は信じちゃいねェけどよ」 「そんな事いってると、呪われちゃうぞ〜」 京一の背後にいきなり女生徒の声が響く。さきほどの悪寒が、さらに京一の背筋を蹂躙した。 「こッ、この声は・・・うッ。裏密ッ」 京一が、バッっと振り向いた。位置関係で見えなかった龍麻も、京一の隣に移動する。 耳のあたりの高さで髪を切りそろえた、ビン底眼鏡の女生徒が、人形をかかえて立っている。その口元には笑みが浮かんでいた。 「うふふふ〜。ミサちゃんて呼んでェ〜」 「・・・・・・・」 京一が一歩ひいて押し黙ってると、裏密が視線を龍麻に向けた。 「あァ〜、この人、もしかして〜、今日きた転校生〜?」 「あ、あァ・・・まあ、な」 京一がチラリと龍麻を見る。龍麻はこれといって、驚いた風がなく、それが逆に京一を驚かせた。京一の知る限り、裏密と初めて会って、恐れおののかなかった男はいない。 「うふふふ〜。あたし〜、魔界の愛の伝道師〜、ミサちゃんです〜。どうぞ、よろしく〜」 「俺は緋勇龍麻。よろしくね、ミサちゃん」 その上、自己紹介と握手までしてしまった。ある意味、京一は戦慄し、そして尊敬した。 「うふふふ〜。ミサちゃんうれし〜。これは、因果律によって定められた事なのね〜」 「? 難しいことはよくわかんないけど、喜んでもらえて嬉しいや」 「あはははは・・・・」 二人の噛み合ってんだか噛み合ってないんだかわかんない雰囲気に、京一が乾いた笑いを漏らす。 「そうだ〜。今度ふたりで、霊研に遊びに来て〜」 「れッ、霊研にかッ!?」 「うふふふ〜」 「・・・・・・・・・」 今までにない悪寒に、冷や汗だらけの京一だった。 「じゃあね〜。また今度ね〜」 裏密は、そのまま音もなく立ち去っていった。 「・・・・・・・・あははははは・・・・・・。あとは、1階だけだな。行こうぜ、緋勇」 とりあえず、なかったことにしたようだ。
■1階廊下■ 「ここ1階にはだな、1年のクラスと、職員室と保健室がある。俺たちの担任の、マリアせんせに会いたけりゃ、職員室に行けば会えるぜ」 「ほうほう」 「マリアせんせは、前の英語の担任に代わって、3ヶ月前に、この学園に来たばっかりなんだけどな・・・ヨーロッパのナントカってトコから来たってハナシだ。あのとおり、美人だから、止めときゃいいのに、狙ってるヤローも多いって話だ。もしかして・・・・・」 「?」 「お前も、マリアせんせの事狙ってるクチじゃねーだろうな?」 「さァ、どうかね?」 「・・まァ、火傷しねェよーに、気をつけるこったな。なんたって、あれだけの美人だからな。へへへッ・・・、まァ、いいさ。そーだな・・・、ちょっと、マリアせんせの顔でも覗いていくとするか」 ガラッ! 言うが早いか、京一は職員室のドアを開け、中に入る。龍麻もそれに続いた。 「―――っと、マリアせんせは、っと。あれ? いねェなァ」 「マリアセンセーなら、職員会議でいないわよ」 「―――――――!!」 「何よ、その顔は・・・・」 アン子が二人の後ろに立っていた。驚く京一の様子に怪訝な顔をする。 「アン子・・・今からでも遅くない。自首しよう・・・」 「はァ?」 「いくら自分が頭がわりィからって職員室に忍び込むとは・・・。ほらッ、出せよ」 「何をよ」 「答案だよ、答案ッ。盗んだんだろ? 俺も何度か挑戦したけど、成功したコトなかったがな。さすが、真神の怪盗ルパンの異名をとるアン子だよ。いや、お見事。まったく―――ん?」 アン子が俯き加減になって、体を震わせている。 「なんだ、お前。なんかプルプルしてるぞ」 「―――バ・・・バ・・・」 「・・・・?」 京一が怪訝な顔をする。 ちなみに、龍麻はこのとき、京一の隣から退避していた。 「バカァァァァァッ!!」 パシィンッ!! 「グハッ!」 アン子の平手打ちが見事に決まり、京一が倒れる。手首のスナップが効いた見事な平手打ちに、龍麻が拍手をおくっていたりした。 「あたしが、そんな事するワケないでしょッ!! あんたって、筋金入りのバカねッ」 「あたた・・・・」 「ふんッ!!」 バシャッ! 音を立ててドアが閉まる。アン子は肩を怒らせて廊下をズンズン歩いていった。 「くそッ。あいつ、おもいっきり叩きやがって・・・ムチウチにでもなったら、どーするつもりなんだッ、あたたた・・・・」 「いやあ、見事な平手打ちだったねェ」 「マリアせんせはいねェし、平手打ちはされるし―――。くそッ。緋勇っ、教室に戻ろうぜッ」
■3−C教室■ 「どうだった、俺のガイドは。なかなかのモンだろ」 「うん、笑わせてもらったよ」 「・・・・・お前、実は結構キツい性格か?・・・ま、これから、楽しくやってこうぜ。じゃ、また後でな」 京一が自分の席に向かう。 「ようやく、いなくなりやがったか。うっとおしい野郎だぜ・・・」 「?」 振り向くと、佐久間が立っていた。下方から睨みつけるような姿勢で、龍麻を見ている。 「てめェ・・・。目障りなんだよ・・・。転校生だからって、イイ気になってんじゃねェぞッ」 ガラァ。 教師が入ってきたら、女生徒の一人が定礼を始めた。 「ちッ」 佐久間が離れていく。 「むう、目ェつけられてるねェ」 さして、困った風もなく、呟き、龍麻は授業を受けていた。 |