第十七章

人と魔 女の子と男の子(中編)

 九月六日―――九十九のマンション。

 PM8:00。

「柿原くんが人狼!?」

「・・・・ホントかッ?」

 電話で呼び出され、九十九に今日起こったことを聞かされた壱姫と千夜が九十九に詰め寄る。

「・・・・多分な。名前を言ったわけじゃないが、あのサッカー部の連中を追ってたのは確かだし、辰巳の身体から感じた獣の匂い、あいつら人狼のそれとよく似てる」

「・・・・・・・」

 部屋の中にしばらく沈黙が続く。

「・・・しかし、あいつから妖気は感じないぞ? お前が獣臭を感じたのも、つい最近なんだろう?」

 千夜の言葉に、九十九が頷く。

「確かにな。こいつは俺の予想なんだが、おそらく辰巳は、一族から離れた人狼の末裔だ」

「・・・・・・なるほど、先祖返りか」

「ああ。おそらく辰巳の先祖に人狼がいたんだろう。妖怪の血が何かのきっかけで覚醒する、先祖返り。辰巳にそれが起こっていると仮定すれば、色々と納得がいく」

「んで、それをどうやってか嗅ぎ付けた人狼たちが、辰巳くんを仲間に・・・。でも、どうして人狼たち、仲間を集めだしたんだろ?」

「・・・・・・・」

「ん? どしたの、九十九。なんか知ってるの?」

 わずかに表情を堅くした九十九に気づき、壱姫が話を振る。

「・・・どういう目的かは、言ってなかった。誰かの命令に従ってるみたいだったがな」

 『誰』なのかは、九十九は知っている。だが、そのことは言わなかった。言えないわけがあった。

「ま、しばらくはあいつを保護・・・は、だめだな。気づかれないように護衛しとくか」

「?・・・・なんで、気づかれないようにするの?」

「・・・・・俺の説明、少しは吟味しろよ」

 疑問の表情になる壱姫の言葉に、九十九が半眼になる。

「その我陵という人狼の言葉通りなら、辰巳は自分が人狼の血を引いていることを知らない。それなら、知らないままで護ったほうがいい、だろう? 九十九」

「そういうこった」

「・・・・あッ、なるほど」

 壱姫がポンッと手を打つ。

「今まで普通の人間として暮してたんだ。そのままの方がいい・・・・・」

「九十九・・・・・」

 九十九の表情が翳る。

 

『人とは違う姿・・・・・人とは違う力・・・・・。退魔師が滅ぼすべき存在だ』

『・・・・・だけど、俺は、お前たちと一緒にいたい』

 

 九十九の故郷、鬼哭の里で聞いた言葉。

 いつも気の抜けた笑みで、自分の憎しみや怒りをさらりとかわしていた九十九。まるで、自分が妖怪《鬼》の血を引くことを気にしていないかのように振舞っていた九十九だが、あの言葉を聞いた瞬間気づいた。

 九十九が誰よりも人間でありたいと思っていることを。そして、九十九自身の身体が、その気持ちを苛んでいることを。

「・・・・・・とにかく、辰巳に気をくばって行動しようぜ」

 九十九が立ちあがり、ベランダに出る窓をあけた。

「奴らが何かをしかけてくるとしたら・・・・・・」

「次の満月のとき・・・・」

「あと二日、くらいかな」

 千夜と壱姫が九十九に並び、夜空に浮かぶ月を見上げる。月は、真円を描きつつあった。

 

 

 二日後。

 鵬鳴高校―――放課後。

「あれ?」

 壱姫が3−Dの入り口でキョロキョロしている。壱姫を待っているハズの九十九の姿がない。

「九十九なら帰ったぞ。『月下』に用事があるんだと」

「三芽さんのところに?」

 もう一人の待ち人、千夜の言葉に壱姫が頬を膨らます。

「じゃあ、辰巳くんの護衛、二人でやるの?」

「気づかれずの護衛なんだ。数は少なくてもいいだろう。日の出てるうちは、ヤツらも本来の力は出せないから、そう派手な行動はできないだろうしな」

 『夜の眷属』である人狼は、月の魔力を力の源とする種族である。そのため、月光が届かない昼や新月のときには、その能力は著しく落ちることになる。

「でも、昼日中でも変身できるってことは、かなりの『力』を持った人狼ってことよね」

「ああ、種族によっては月がないと変身もできないらしいからな。とりあえず、十吾達もこっちに向かってもらってる」

「相手がどこにいるか分からないのが、痛いところよね。どうしても後手にまわらなきゃならない」

「そうだな。さて、仕事を始めるか」

 

 

 煉戒市南区―――喫茶店「月下」。

「はい」

 三芽が持っている盆から、オレンヂジュースの入ったコップを手に取り、九十九の前に置く。

「姉さん・・・・」

 九十九が気の抜けた笑みを浮かべた顔を、オレンヂジュースから姉の方へと向ける。

「なに?」

 こちらは、いかにも営業スマイルといった感じの笑みで、首を傾げた。九十九は、2・3回首を振り、あたりの状況を確かめる。

「この店・・・・・、客いないね」

 ピシッ!

 三芽のこめかみのあたりが引きつる。まだ日が落ちるには時間があり、往来には通行人も多いというのに、喫茶店「月下」には、九十九以外人っ子一人いなかった。

「儲かってないのか?」

「うるさいわねェ・・・・」

 営業スマイルから仏頂面に変わった三芽が、九十九の向かいに座った。

「いいのよ、ここは。父さんたちの趣味でやってる店なんだから」

「ふーん・・・・、ま、いいや。で、例のモノは?」

「これよ」

 三芽が小さな木箱を、九十九の前に置く。九十九がそれを手に取り、蓋を外すと、敷き詰めた布の中に埋もれるように置かれている指輪があった。銀色の輪にはめ込まれた楕円の宝石は、淡い赤を帯びている。

「ヒヒイロカネを含む鉱石から特殊な精製術で生み出す護法の石、陽神珠(ひのかみのたま)。高校生が彼女に送るプレゼントにしちゃ、上等すぎる代物よ」

「だから、俺を通してんだろ。でも、母さんに頼んだツテが、巡り巡って姉さんに回ってくるとはねェ」

「ヒヒイロカネなんかの霊的鉱物を集めるのが私の副業だからね。そっち方面との繋がりがあるのよ。それにしても、その石のことしってるなんて、その辰巳って子、そーいう関係に強いの?」

「いや、あいつとの会話の流れで、そのことを俺がポッと口にだしたんだ」

 陽神珠。退魔師などの間では、この石は男から女に、つまり愛する者に贈る宝石として扱われていた。ヒヒイロカネがかなり希少な鉱石なため、かなり高位の退魔師でも、手に入れにくいものだ。

 それを、普通の高校生が手に入れようとするのも無茶だが、高校生が小遣いを溜めた程度の金額で売らせた九十九もかなり無茶である。

「その子の彼女も幸せものよね・・・・・。ところで、九十九」

 三芽の顔から笑みが消える。

「今絡まれてる連中、気をつけなさい」

 三芽の言葉に、オレンヂジュースのコップを持とうとした九十九の手が止まる。

「・・・・・・知ってたの?」

「ヒヒイロカネの霊気を探索しているときにね。あんたともう一つの気を察知したのよ」

 テーブルに置いてあるポットから水をコップに汲み、口に運ぶ。

「・・・・今日、煉戒市内に限定して怪しい気配を探知してみたわ。1ヶ所に集まり出してる同じような気配を持っているのが、6匹ほど。こっちは多分、あなたたちなら対処できるわ」

「含みがあるね・・・・」

「・・・・・・・うまく気配を消してるけど、かすかに別の気配があるわ。感触からいって、かなり強力な妖怪よ」

「・・・・・・・そいつらは、今?」

「・・・・・ちょっと待って」

 三芽が席を立ち、喫茶店の上階にある自室に向かう。しばらくゴソゴソと物音を立てて、店内に戻ってきた。自室から探してきた地図帳を広げ、煉戒市のページを開く。

「このあたりよ・・・・」

 三芽の指が南区を示す。

「・・・・・・・ここの地区じゃねぇか?」

「そうなんだけどね、どうも居場所がはっきりしないのよ。探索系の術で居場所が悟られるのを恐れてるのかもね」

「・・・・・・・」

 

 

 中央区―――柿原家付近。

 PM7:00。

「おう」

「ッ!?」

 後ろからいきなり声をかけられ、壱姫がおもわず声をあげそうになる。振り向くと、九十九が立っている。

「あんたねェ・・・・、気配殺しながら、近づいてくんじゃッ―――」

「はい、ストップ」

 壱姫と共に辰巳の家を見張っていた七香が、後ろから壱姫の口を塞ぐ。

「むぐぐ・・・・」

「一応気づかれないように護衛してるんだから」

 たぶん、「苦しい」とか言ってるんだろうが、七香は聞いていない。

「遅かったな。なにやってたんだ?」

 その光景にツッコみを入れることもなく、千夜が九十九に問う。

「ちょっとな。で、なにか動きは?」

 軽くあいまいに答え、辰巳の家に目を向ける。四人は辰巳の家からはそれほど目立たない場所にいる。だが、あくまで辰巳の家からの話で、住宅地の道の角に、高校生が四人固まってる姿は、それなりに目立つ。

「いや、まだ何も」

「そ、か・・・。そういや、十吾と百荏は?」

「ぷはッ・・・・、二人なら光ちゃんの家に行ってもらってるよ」

 ようやく七香の手から逃れた壱姫が答える。

「御堂の?」

「辰巳くん、彼女と一緒に帰ったんだけど、当然家が違うんだから、途中で別れるでしょ? そん時、もしかしたら人狼たちが彼女を狙うかもっておもってね。人質としては最適だし」

「まあ、可能性はなくもないって程度だが、どうも悪い予感がしてな」

 別に壱姫たちに、予知能力の類の力があるわけではないが、退魔師たちは時に自分の勘に従って行動を起こすときがある。常人より発達した精神的な部分が、五感では感じられない危険を察知しているとも言われている。

「・・・・・・・」

 九十九が空を見上げる。西の方がわずかに明るいが、もう日は暮れている。そして、満月。《夜の眷属》が本来の力を発揮できる夜だ。日本屈指の退魔師の一族、神影流が絡んできている以上、人狼たちもこの日に行動を開始する確立が高い。

 だが、まだそれは起こっていない。そして、九十九は漠然とした不安を持っていた。

(辰巳を狙っているのなら、なぜ南区に集まっている?)

「どしたの?」

 考え込んでいる様子の九十九を、壱姫が不審がる。九十九はしばらく考えている態勢のままでいたが、やがて、壱姫に問うた。

「・・・・・壱姫。御堂の家って、どこにあるか知ってるか?」

「え、光ちゃんの家? 確か・・・・・南区だよ」

「・・・・・・・」

「なにやってんだ? お前ら」

『え?』

 四人が振り向く。自転車に乗った辰巳がそこにいた。

「・・・・・・」

 九十九が家を見張ってたハズの七香の方を見る。

「あたし、目、離してないよ」

「・・・・・俺はいつも裏から出てくるんだが」

「ああ、だからこっちの道から出てきたのか?」

「納得したところで、お前らがなんでこんなところにいるのか聞きたいんだけど・・・・知らない顔も一つあるし」

「アハハハ」

 とりあえず、笑ってごまかす。

「あのな・・・」

「ホレ」

 ツッコまれる前に、辰巳にあるものを渡す。

「?」

 手渡されたものは木箱だった。辰巳が木箱をあけてみると、赤みを帯びた真珠に似た石がはめ込まれたリングが入っていた。

「あッ!? これ、アレか?」

「陽神石だ」

「そう、それッ。あー、わざわざ届けてくれたのかッ」

「そういうこった」

「・・・・・・」

 納得したようだった辰巳の表情に、再び疑いの色が浮かんでくる。

「それにしちゃ大人数だな。それに、そっちの子は禄邦工科大付属だろ?」

「そうよッ。忙しい身なのに、あんたのために出張ってるんだから感謝しなさい」

 ゴゴゴンッ!

 なぜか胸を張って高らかに言う七香の後頭部に、3人のゲンコツが落ちる。

「〜〜〜〜ッ!」

「気にするな」

「ハァ・・・」

 九十九は、後ろで声にならない悲鳴を上げてうずくまっている七香を無視して、ポンッと辰巳の肩を叩く。

(・・・・・・・匂いが薄れている)

 手が届くまで近づいているというのに、二日前に感じた獣臭が薄れていた。

「・・・・壱姫、行くぞ」

「へ?」

「千夜と七香は、もう少しここにいてくれ」

「ちょっと、どういうことッ?」

 壱姫が歩き出した九十九の肩を掴む。振り向いた九十九の顔はかなり険しいものになっていた。

「見当違いのことをしていたかもしれん」

 九十九が携帯電話を取り出した。メモリから十吾の番号を呼び出す。

 

 同時刻。

 南区―――御堂家玄関前。

 ピピピピッ・・・ピピピ。

「もしもし?」

 十吾がかかってきた電話に出る。

『十吾、そっちで何かあったかッ?』

「ああ、九十九か。今、連絡しようとしたとこなんだが・・・・・」

 十吾の持つ棍、天原家の法具《焔楼》が、炎のような赤みを帯びた霊気に包まれる。

「奴ら、こっちが本命らしい・・・・・」

 闇の中には、わずかに届く街灯の光に反射する、無数の瞳の光があった。

 ザザザッ!

 そのうちの一対の光が十吾に向かって迫ってくる。

「神影流棍霊―――」

 雲に隠れていた満月が顔を出す。闇を照らす月光が、襲い来る人狼の姿をハッキリと映し出した。

「剛破撃!」

 ドゴォッ!

 突っ込んできた人狼が鋭い爪を振るうより早く、その脳天に霊気を込めた棍を叩き落す。

「―――ガアアッ!」

「チッ!」

 激しくアスファルトの地面に頭を叩きつけられた人狼は、それを意にも介していないように、すぐさま飛び起き、腕を振るう。

 十吾はそれを、後ろに跳んでかわすが、わずかにふれた爪先が服を切り裂く。

「状況はわかるだろ? なんとかなるとはおもうが、できるならなるべく早く来てくれ」

 棍を付きつけるようにして牽制しながら、電話を切り、上着のポケットにしまう。

「さて・・・・」

 棍を両手持ちに変え、人狼たちと対峙する。

「・・・・五匹か」

 ゴオオオオッ!

 T字路になっている角の影から、数匹の人狼が轟風に吹き飛ばされてきた。そのうち一匹の身体には、霊気を待とう扇がくい込んでいた。

「残りはあっちか・・・・」

 ガキッ!

 さっき地面に叩きつけれた人狼が、十吾に向かって腕を突き出す。棍でそれを受けとめるが、人狼の腕力に弾かれそうに

なる。

「フッ!」

 その人狼を跳び越すように十吾に襲いかかったもう一匹の攻撃を、わずかにずらした棍の端で受けとめた。その際、反対側の端を地面につけ、威力を大地に受けとめさせる。

「セイッ!」

 棍の両端に霊気を込め、鋭く振るう。

「ガッ!?」

「ゲエッ!」

 人狼たちが同時に吹っ飛び、左右の塀に叩きつけられる。

「・・・・・さすがに満月時の人狼は、そう簡単に倒れないか」

 打撃力に関しては、神影流六武法の中では拳霊に並んで強力な、十吾の重い棍の一撃を受けても、人狼はさしてダメージをうけていないようだ。吹っ飛ばされた人狼は、軽く頭を振るい、再び、十吾に襲いかかった。

 

「チッ・・・・」

「ちょっと九十九、十吾たちに何かあったのッ?」

「やつら御堂の家に向かいやがった」

「えッ!?」

「おい、どういうことだつくッチ!」

 自分の彼女の名が出て、辰巳が九十九に詰め寄る。

「・・・・しまった」

 うっかり御堂の名を口にしたことを悔やむ。

「すまねェ、後で説明してやるからよッ」

「ちょっと、早くしないと。十吾たちなら大丈夫だと思うけど、街中じゃ大技は使えないのよ!」

「そうだな」

「どっかでタクシーでも捕まえるッ?」

 大通りに向かって歩き出したが、九十九の肩を掴み、辰巳が一行を止めた。

「おいッ、つくッチ!」

「・・・・・・」

「うあ!?」

 バサァッ!

 辰巳の腕が、九十九の背中から伸びた淡く銀色に輝く翼に弾かれる。

「ちょ、ちょっと九十九!?」

 九十九は《鬼》の姿に戻っていた。額から伸びるエネルギー状の角。服が千切れ飛び、背中に生えた銀色の巨大な翼。その姿と、ガラリと変わった攻撃的な気配に、辰巳は腰を抜かしたように地面に座り込んだ。

「・・・・・時間がおしい。いくぜッ」

 九十九の右腕が呪符帯に戻り、壱姫たちの身体に巻きつく。

 巨大な翼が羽ばたき、3人の重量をものともせず、空に舞いあがる。

「・・・・・・・・ちょ、ちょっと待てェ!」

 しばらく南の方角に飛んでいく光を目で追っていた辰巳が、倒れていた自転車を起こし、南区に向かってペダルをこぎだした。

 

 

「ねえ、九十九・・・・」

「なんだ?」

 中央区と南区の境あたりまで来たところで、壱姫が口を開いた。

「柿原くんにあんたの姿・・・・見せてよかったの?」

「・・・・・・・」

 九十九はその問いに答えず、ただ南に向かって飛んでいる。九十九が《鬼》の血を引く一族の出だということは、高校では壱姫と千夜だけだ。妖怪というのは、一般人からすれば、どれも凶悪な怪物という印象がある。鬼の血を引いているだけでも畏怖の目で見られることになるかもしれない。

「・・・・・・――――!?」

 光が走った。闇を切り裂くような稲妻が九十九たちに向かって走る。しかも空からではなく、目下の街からだ。

「うおッ!」

 直撃はしなかったが、余波で身体がしびれ、四人が地面に向かって落下していく。

「オオッ!」

 かろうじて、態勢を立て直し、九十九は地面スレスレで浮力を取り戻す。呪符帯を壱姫たちの体から離し、地面に降り立つ。

 そこは小学校のグランドだった。

「なんだったの? さっきの稲妻」

「さあな。ただ、俺たちの邪魔をしたいやつがいるってことはわかるだろ」

 九十九が夜の闇の向こうに視線をやる。月明かりの下に、大きな人影が現われた。

「誰!?」

 壱姫が守薙を取り出し、構える。千夜と七香もそれぞれの法具を構えた。

「―――!?」

 法具《神羅》を装備しようとした九十九の動きが止まる。

「九十九?」

「どしたの?」

「・・・・・・・・」

 壱姫と七香の問いに答えず、九十九は驚きの表情で現われた人影を見ている。

 壱姫たちはその視線を追って、同じように人影を見た。そして、九十九の驚愕のわけを理解する。

「こ、こいつは・・・・」

 現われたのは、2メートルはあろうかという巨漢の男で、まるで虎のような顔つきをしていた。黒く長い髪は全身を覆うように

ザワザワと揺らめき、時々、帯電しているかのように、電気が走る。

「久しぶりだな、九十九。零朱の息子よ」

 野太い声で、まるで気の知れた知人にでも会ったかのように、巨漢の男はそう話しかけた。

「ら・・・・雷過さん・・・・・」

 200年前、鬼哭の里で九十九の父、零朱とともに里を襲った退魔師と侍たちと激しい戦いを行った一人、雷を操る男が、今九十九たちの前に立っていた。

 

 

 

  第十八章に続く。      戻る?